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空。

 空。青い空。曇り空。仄明るい空。真っ暗な空。

 あなたは空みたいな人だ。ひとりの人格であることを疑ってしまうくらい、表情が豊かだった。まるで同じ表情を浮かべたら命を奪われる契約でも結んでいるみたいに、ひとつとして同じ表情を浮かべない人だった。

 それは、私のがわにも原因があるのかも知れない。私もあなたと生活していくうちに、感情を得ていった。『素晴らしきかな、人生』みたいだ。感情がひとつひとつ、私の元を訪ねてきた。私のがわの喜怒哀楽が豊かになるにつれて、感情の掛け算は多岐にわたる。怒っている時に見る泣き顔は怒りが増幅するばかりだし、悲しい時に見る笑顔はひたすらに辛い。あなたが私に与えたものは、はかりしれない。

 私の今の感情は何なのだろう。あなたの隣に私はいない。どんな感情でもいいから、私の元へ来て欲しい。名前があればそれでいいのだから。私はあなたを想う。あなたは空みたいな人だった。

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