白詰草の庭。

どれほど美しいものでも、飽和点は存在する。


白詰草で溢れる庭があった。それは違和感を憶えるほど、跋扈に近い有様だった。不思議に思った少年は、白詰草の庭の番人に訊ねた。

「番人さん、番人さん。この庭にはどうしてこんなに白詰草が生えているの? 」

「坊や。この庭には、たくさんお日様が降り注ぐからだよ」

「番人さん、番人さん。それだけでこんなに白詰草が生えるのかな? 」

「坊や。この庭は、私が愛情をもってお世話しているからだよ」

「番人さん。ここはお墓なんでしょう? 僕にはあれが、生に焦がれた指先の爪にしか見えないよ」

番人が死ぬと、少年は遺体から手を切り出して、白詰草の庭に埋めた。それが、一番の弔いであると信じて。翌年、生に焦がれた赤い爪先が大地を貫いた。少年はそれに水をやり、庭に二度とは帰らなかった。


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