三本目の腕。

三本目の腕は、ある早暁に肩甲骨の間に生まれた。眠りが病的に深い僕にとって、日が昇る前に目が覚めることは、虫の知らせを感じざるを得ないことではあった。僕はどこかむず痒さを抱えながら、台所へ向かい一杯の水を飲んだ。しかし、徐々にその違和感は背中に集約されていき、背中を掻いた僕は文字通り腰が砕けてしまった。そこに、三本目の腕が生えてくるなんて誰が想像つくだろう? 

三本目の腕は爪のように少しずつ、しかし確実に伸びていった。病院に行くべきだろうか。しかし、何科に行けばいいか皆目見当もつかない。親しい友人にも家族にも、打ち明けることは出来なかった。背中から三本目の腕が生えたなんて言ったら、気狂いになったと思われてしまう。僕は動かない腕を隠して、日常をやり過ごしていた。

腕の発現からちょうど3週間、腕は生え揃った。僕の右腕と左腕と同じ質感同じ長さの、中腕が完成した。まったく、三本目の腕が生える運命が、僕に降り注いだのだろう。憂いても憂いても、完成した中腕が消えることはなかった。

ただしかし、誰にだってそういう秘密ってあるのかもしれない。僕に腕が三本生えていようとも、電車には乗れるしレストランでお洒落なディナーを食べる事はできる。僕にとってその秘密が、中腕であったに過ぎないのかもしれない。それだから僕は今、この腕を割に気に入っている。特訓して動かせるようになったから、朝の珈琲は中腕で飲んでいる。

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