タクシードライバー。

「運転手さん、あたしって不感なの。ズボッと入って、動いて、それで終わり。心も体も、動かない。そういうのって、少しきついの」

「……正直言って、僕は一度人を殺してしまったことがあったんです。正確に言えば、救えた命を見捨てた。あの時のことは未だに夢にみます。僕の心の中にも悪魔はいた。運転手さん、それってすごい怖いんだよ」

「お兄さん、こっちの世界とは絶対関わるなよ。タクシー運転手っていうのは、裏の時間に稼働している分、ちょいちょい巻き込まれちまうんだけどさ。こっちの世界は、まさに泥沼なんだよ。一度踏み入れたら、どうにもこうにも付きまとってくる。どこまで遠くに逃げても、離れられないんだ」


「いやいや、今回もありがとう」

プロデューサーは、タクシードライバーに5万円を渡す。

「本当にいいんですか? 正直言って、こんなの日常茶飯事ですよ」

「それじゃあ、継続的に頼むよ。人はなぜか、タクシードライバーに対しては正直に話すんだ。短編ドラマの題材に、これだけ美味しいものはない」

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