枯れ薔薇の。
「現実というのは、ひとえに枯れた薔薇のようだね、君」
友人は棺桶を見て、呟いた。
「瑞々しく咲いていた記憶が邪魔して、捨てることができない。すっかり枯れてしまっているのに、みてくれだけは綺麗だからその気も起こらない。時々触れようものなら、棘に貫かれる」
「少し考えすぎだよ」
僕は意味をなさないことを知ってもなお、そう言う他がなかった。友人は、薄氷のように繊細で脆い男だ。それでもどうにか生きながらえてきた。それなのに……彼の周りの人物はみんな歩調を合わせるように死んでしまう。
「ねぇ、次は君がいなくなってしまうんじゃないのかい? 」
「僕はずっといるよ、間違いなく」
友人は世界を呪うような溜息を吐いた。
「しかし、現実は枯れた薔薇なんだよ」
明くる日友人は死んだ。僕は彼の分も生きようとしたが、一年ともたなかった。
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