高熱の真昼。

「何がワクチンだ。これじゃあ普通に罹っちまう方が楽じゃあないかい」

ベットに倒れて、電話をしている。ワクチンを前日にうった若者の誰しもが、真昼に拘束されている風景は物珍しい。

「まぁまぁ、君の大好きな海外旅行にいち早く行くためにはしょうがないじゃあないか。それにしても、今日は冷えるね……」

「まったく、真夏に毛布に包まったいるだなんて、ゆめゆめ思わなかったよ」

外は摂取30度を観測しているのに、彼は寒気に震えている。

「でも、君と昼間からこうやって喋るだなんて、随分久しぶりじゃあないか」

「……確かに、そう言われるとそうだね。この頃は忙しかったからね」

「こうやって真昼間に堂々と眠っていられるなんて、齷齪と過ごす日々では考えられなかったじゃあないか。おまけに、これからは融通が効くようになる。一石二鳥だよ」

「君の楽観主義は、相変わらず剣呑だよ。しかし、寒い寒い……」

台風一過の生温い風が、悪寒の走る体を包む。あったかい。悪くはないな、と彼は思った。外では、今日も注射針がぶすぶすと刺し続けられている。

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