完璧な色彩。

カクテルグラスはキャンバスだ。僕はシェーカーに絵の具を落として、完璧な色彩を思いながら振る。色彩はいじらしく、僕をからかう。完璧な色彩というものは、僕が神様でもない限り創ることはできないのだろう。完璧な色彩なんて~。どこかの小説家みたいだ、と僕は思う。

私は随分と長い間、アルコールに惑溺していた。道化として生きる現実に疲弊していた僕にとって、アルコールがもたらす恍惚は余りにも甘美で、余りにも本質的だった。身体が苦しみを錯誤するようになった。不具な毎日を過ごす中、唯一の美しい存在がカクテルだった。無限の組み合わせがある色彩を、僕はただ希求するようになった。理想の色彩を願い、その馨しさに耽るようになった。気付いたら、僕は店を持つことを目指して、歯を食い縛るようになっていた。

無限の組み合わせがあるということは、一つとして同じカクテルがないことと同義である。僕はあなたに、森羅万象でたった唯一のカクテルを出せることを、少し気恥ずかしく思っている。


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