預物語。

「良い物語は、創りあげるものではなく、描き切るものだ」

先生は一度だけ私に落とした言葉が、私を捉えて離さない。私は毎日創作を試みたが、その意味するところを理解することができなかった。先生は死んでしまった。私は創作が不可能になった。

しかし、物語はある日唐突に降りてきた。まるで、神が言葉を預けるみたいに。その振りかざし先が、たまたま私であったのだ。私は物語に熱中した。脳内で鮮やかに映る映像を的確に表現し続けた。それは酷く体力を必要としたが、苦しくはなかった。やがて、その物語は音を立てて完成した。

そうか、と私は思った。これが描き切るということか。私は先生の墓に手を合わせたいと思った。ただ、次の物語がやってきたから、今はまだ物語を表現している。


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