張りぼての街。

久方ぶりの帰郷。街は変わっている所とそうではない所がいがみ合っているようで、何だか不思議な気分だった。

「駅前は、まるで違う場所だね」

大きなマンションが建立し、その周りを囲うようにドラッグストアやコンビニエンスストアが立ち並ぶ。 

「変わったのよ。この街も、私達も」

彼女はどこか憂いを帯びている。喧嘩別れをして以来の街に、なにか期待をしていたのかもしれない。

「しかし、これだけのマンションが建つくらいに、人が居るとは不思議だね。僕達の思い出は、いつも人が少なかったのに」

「....…張りぼてみたい」

彼女は新雪を溶かすような吐息をつき、下を向いた。

「このマンションも、あのお店も、全部張りぼてだったら、どうする? まるで、『DAU.ナターシャ』みたいに」

「そしたら、僕と君もエキストラということになるよ」

僕は笑ったが、彼女にその余裕はないみたいだ。

「でも、現実とはとても言いきれないわ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?