黒い天使と白い悪魔。
男は暗闇を愛していた。男は他人より感覚が聡く、他人が一つの情報として処理する事案に対しても、頭を燃やすように悩んだ。男が安らぐのは暗闇だった。月がでしゃばらなければ、自らの手すらもぼんやりとしか見えない暗闇の中に身を置くことが、男にとって何よりもの安らぎだった。男は暗闇にこそ天使がいると信じて疑わなかった。黒い天使。男は、黒い天使を愛していた。
男は明るみを憎んでいた。男は他人より感覚が聡く、目の前が在り在りと照らされる明るみに身を置くと、どうしようもない焦燥感に襲われた。自らの一挙手一投足が正確に処理される明るみに身を置くことが、男にとって何よりもの塗炭であった。男は明るみにこそ悪魔がいると信じて疑わなかった。白い悪魔。男は、白い悪魔を憎んでいた。
もちろん、男はアルコールに浸り続け、やがて中毒者になった。男は酩酊した頭で、黒い天使と白い悪魔についてしきりに考えた。しかし、分からなくなった。いったいどちらが悪魔で、どちらが天使だったのか。男はついに、どちらかが分からなくなった。