消防点検。

異郷に侵入する。他人の家に入る瞬間の感覚は他にかえがたい。整頓された家ならば穢したくなる。その欲求を押し留めることすらも快感に繋がる。

子どもの頃、消防点検の時間が嫌いだった。ひとの家に、部屋に、ずかずかと侵入してくる異物感を僕は受け付けなかった。憎みさえしていたかも知れない。

けれども、なんやかんやで僕はこの天職についている。人生のいかなる瞬間が、僕を消防点検という職に導いたかは分からない。人生とはそもそもそういうものなのかも知れないが。

「消防点検にまいりましたー」

この部屋には少年がひとり。僕を見つめる視線が、艶かしい。

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