夏去。

「この子は、八月に死ぬから夏去(なこ)と呼ぼう」

夏去はこのように不穏な理由で、名付けられた。夏去の父親は、人の死期が分かる能力があり、死神と呼ばれていた。母親は、そのような父親に陶酔していて、彼の意見を何よりも尊重した。親戚はほとんどいなかったから(みんな若くして癌で亡くなった)、誰も止めてくれなかった。夏去という名前は戸籍上に刻まれ、夏去は名前の由来を聞かれる度に溜息をつく運命を背負い込んだ。

夏去は、物心がついてからずっと、夏が来る度に死を意識せざるをえなかった。死が何たるものかを理解する前から、迫ってくるその季節に夏去は苦しんだ。夏が近づくと、夏去の髪は白く染まるようになった。多くの人はそれを蔑み、夏去は余計に苦しんだ。

やがて、父親が交通事故で亡くなり(雪が何度も降った秋)、母親が癌で亡くなった(記憶に残らないくらい平凡な春)。そして、孤独の身で迎えた初めての夏に、夏去は自ら命を絶った。夏去は、運命に殺されたのか、夏に殺されたのか、最期まで分からなかった。


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