野良人。

茂みから野良人がこちらを覗いている。

「あら、野良人だわ」

女性は野良人に近づこうとしたが、警戒心の強い野良人は女性を睨みながら後ずさろうとしている。

「ほら、餌だぞ」

男性は腰を落とし、野良人と視線を合わせる。野良人はいつも腹を空しているから、餌には滅法弱い。

「美味しいね」

「うまそうに食うな」

野良人が貪り喰う様を見て、男性と女性は頬笑んでいた。

「自分から人間性をすてるなんて、なんてかわいらしいのかしら」

「健気だよな」

野良人には振りしきる尻尾がないから、その喜びを勃起で伝える。

「あらま、おおきくなって」

「元気なやつだ」

野良人が日常に溶けこむ世界が来るとは、誰も思わなかった。しかし、誰も思わないことが当然に起こるのが、この世界というものだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?