千切り。
千切りが得意になった。あれほどとらわれていた庖丁への恐怖心も、すっかりなくなった。コンコンコン。心地よいピッチで響く音が僕は好きみたいだ。
コンコンコン。千切りが好きになってから、僕は時間を切り刻んでいるかのような錯覚によく陥るようになった。毎日は目まぐるしく過ぎゆき、それに伴って千切りのピッチも小刻みになってゆく。コンコンコンコン。
コンコンコンコンコン。もはや一日という単位が意味を成さないくらい圧縮された時間を過ごす。僕は時間を細かく切り刻む。しかし、その音に集中し過ぎるあまり、動作と思考が分離した。刹那、指先に激痛が走る。僕は悶絶した。鮮血が吹き出し、大根を紅く彩った。僕は、久し振りに生きていたことを実感した。