不死の男。

「死ぬことより、これから生きていくことの方がずっと怖いんだ」

しかし彼は、死ぬことができない運命だった。彼の生命力は神様が目を見張る程で(神様にだって時々はミスを起こす)、常人なら平気で死ぬ場面を彼は幾度となくくぐり抜けてきた。戦争で心臓を撃ち抜かれても、医療ミスで致死量の数倍の薬剤を打ち込まれても、水中に数十分閉じ込められても、彼は蘇生した。ある人は人類の奇跡と称え、ある人は悪魔の呪いだと畏れた。

彼の数少ない友人たちは、一人また一人と死んでいった。しかし、彼の心臓はそれを嘲笑うかのように、生命力を増して行った。彼の見た目はむしろ若々しくなっていき、周囲の人間は彼を畏れるようになった。彼は人里を離れ、竹林に生きるようになった。

彼は今も生きている。神様は自身の失態を隠すように、彼を竹林に閉じ込めた。(もちろん、神様を責めることはできないけれど)しかし、時々その縫い目をくぐるように、竹林に紛れ込む人間がいる。彼ら彼女らは町へ帰ると、仙人がいると記録を残した。神様はそれを見て、いつもはらはらしているらしい。


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