夏の日のアブサン。

悪魔。私は蒸し暑さに抱かれて、否応がなしに瞼を開く。気怠さで飽和した部屋は、射し込む陽光さえも厭な感触を増幅する一部だ。内臓の中では、悪魔が暴れている。下水から伸びた手に、身体の内側と外側を同時にこそばされているような気分だ。私は汗染みのシャツを脱ぎ、布団から身を起こす。悪魔の香りがする方へ、視線は移ろう。

机の上には、飲み残した一杯のアブサンがあった。私が悪魔に拐かされて、どれくらいになるだろうか。身の毛がよだつ思いに駆られるようになったのはいつからだろうか。本来の私は、今どこに在るのだろう。不在。悪魔の緻密な犯行に対して、私は諦めるしかないのだろうか?

悪魔が喉を潜る。臓物に熱が走る。私は、生きていると感じる。陶酔、恍惚、あるいは幸甚? しかし、悪魔を伴って生きることを、人はしばしば死神と噂する。



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