空蝉。

嗚呼、蝉が五月蝿い。俺は死んぢまいたかったのに。油蝉の抜け殻を見て、嫌な予感がしていた。何故、お前は鳴き喚く。永遠に、土の中で過ごしていればよかったのに。命を削って、現へ現れる。嗚呼、蝉が五月蝿い。

俺は空蝉に生きてきた。しかし、もう鳴くのに疲れて了った。それなのに、嗚呼蝉が五月蝿い。俺の方が先に斃っちまうも、なんだか嫌な気持ちだ。早く夏が終わればいいのに。

縁側で煙草を吸う。油蝉も、蜩も、蛁蟟も、みんなないている。縁側で煙草を吸う。縁には、抜け殻が二つ。潰さないように摘み、灰皿にする。灰を押し付けたら、砕けちまった。やけにあつい夏の始まりだと思った。

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