鏡の中の私。

鏡の中の私を、先生は知らない。無口なマネキンのように制服を着ていた私が、本当の私だと思っている。先生はたかだか二十数年しか生きていないから、そんな純朴なことが言える。私の方がずっと大人。大人だから、健気な高校生を演じてあげていたのだ。私は最後に少し意地悪を計画する。

学習塾の扉を開ける。先生は私を私と認識するのに、時間がかかる。それもそう。ゴージャスな髪色、けばけばしい香水、絵画のような爪。鏡の中の私を、今日はお披露目する日。制服を着て報告をする方が自然なことは分かっているけど、先生には本当の私を最後に目に焼き付けて欲しかった。

先生、私キャバレーで働くの。私にとって、大学生になるっていうことは、そういうこと。でも、全然苦しくなんてないの。ドン・ペリニョンで大学に行けるなら、それでいいじゃない。だから、目に焼けつけてね。先生は、キャバレーなんて来ないと思うから。私は思い出を抱きしめて、生きていくの。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?