車窓の傀儡。

ラッシュアワーであるはずなのに、今朝は不思議と地下鉄に人が少ない。ノストラダムスの大予言でも再来したのだろうか。いつもと同じ時間帯に人がいないだけで、奇妙な装いを呈していると感じるのは、つくづく人間というものが社会的生物であるのだと思う。列車は、発車する。

僕は車窓に流れる景色を眺めていた。しかし、何かがいつもとは違う。僕は、車窓映る自分の虚像ばかりを見ていたのだ。やけに、虚像が濃く見える。まるで実像への道筋を会得したかのように、虚像ははっきりと意志を持って動き始めた。僕は、虚像の方に突き動かされているような、虚像に貶められたような気がしてならなかった。しかし、僕はどのように自分が実像の方である証明をすればいいんだろう? 

傀儡に成り果てる前に、草臥れたサラリーマンが遮ってくれた。僕は、目的の駅を過ぎてしまっていたことに気づく。しかし、あれが夢であったことを、どのように証明することができるだろう? 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?