嘆歌。

二十歳を過ぎて幾年かが過ぎたというのに、俺は時間の感覚がまだ鈍い。スーツでみてくればかり着飾ろうとも、定刻発車の駅に向けて死に物狂いで走る様はなんとも情けない。本当はスーツなんか着るべき人間ではないのに、小石のように流されてしまうのも俺の性か。 

いつも、そうだった。俺は右から風が吹けば左を向き、風に挟まれると立ち止まってしまうような生き方をしてきた。その隷属的な姿勢はある者には極端に好まれ、それ以外からは疎まれた。気づけば、成人。スーツを着て、走る。溜息はいつからか煙草の煙に変わっていた。

こういう生き方は、幸せの極地に行けずとも、不幸との中庸には留まれると思っていた。しかし、どうやら状況は変わってしまったらしい。いつか戦争だって起きるし、気づいたら貧困が寄り添ってくる。社会の片隅からいくら嘆いたって、舵は既に切られているのだ。俺は定刻発車の電車の臀部を、軋む線路を、ホームから膝で息をしながら眺めていた。

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