神様のご褒美。
青年は、ビルの屋上から飛び降りようとしていた。
「これで楽になれる」
決断に至った経緯を認めた便箋を靴に差し込み、顔を上げるとそこには神様がいた。
「青年よ。いったいどうして、自ら命を擲とうとするのか」
「神様、私はもう生きることが苦しいのです。私は彼女を寝盗られ、会社に嘘をつかれ、友人に裏切られました。私の人生のいずこに、希望がありましょうか」
「青年よ。お前を見捨てて、私はどうして神を名乗ることができようか。願いを一つ叶えてやろう。お前を救ってやりたいのだ」
「神様、それなら私を一思いに殺していただけますか。痛みを感じないように。そのように死ぬことが出来れば、私は本望でございます」
神様は、自身がいない天を仰いだ。
「嗚呼、私が間違っていた。こんな願いを言わざるをえないほどに、この世界が狂ってしまうとは。私が間違っていたのだ」
神様は、袖に携えていたナイフを左手に掴み、一思いに自身の首をはねた。世界はまったくのゼロになり、皮肉にも青年の願いは成就した。
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