綱渡り。

青年はイニシエーションとしての綱渡りを、今まさに迎えようとしていた。


「下を向いてはいけないよ」

「渡りきることだけを考えればいいんだよ」

「一歩一歩を確実に積み重ねれば、ゴールには必ず辿り着くよ」

数多のアドバイスを一身に受け、青年は頭が一杯だった。イニシエーションを迎えるまでの毎晩をシミュレーションばかり重ねて、上手く眠ることができなかった。極限の状態で、青年は当日を迎えてしまった。


固唾を飲んでいる青年を見かねて、長老は助言をした。

「誠心誠意、儀式に向かえばいいんだよ」

青年はその甘言を、限りなく都合良く解釈してしまった。青年は発狂して、綱を駆け抜けた。ちょうど四歩目で、青年は峡谷に堕ちていった。

「彼もまた、イニシエーションに耐えることができませんでしたね」

「仕方がない。我々の方が、異常なのだから」


破れかぶれに事に対峙して、上手くいくほど人生は単純明快ではない。

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