メタバースの住人。

同級生が死んだ。物寂しい葬式であったらしい。同級生が死んだ。哀しい死に際であったらしい。

僕は脳の片隅にいた彼が、生きていると信じて疑わなかった。登場することはほとんどなかったけれど、彼は確かに僕のメタバースで生活を続けていた。もちろん、親しい知り合いというものは限られている。彼が死んだからと言って、同情としてその領域に分別することはできない。でも、彼が僕のメタバースに存在していたことは紛れもない事実だ。

彼が死んだという事実を受けて。僕のメタバースには混乱が生じた。ある住人Aは、彼のアバターに迫った。やい、お前は幽霊だったのか。やい、どうして死んだことを黙っていたんだ。やい、気味が悪いからさっさと消えたらどうだい。

しかし、彼の方も彼が死んでしまったことに戸惑っているようだった。僕と同じように、彼もその事実の理解に苦しんでいる。一介のアバターに、実体の自死に対応するプログラムを求めることは酷であろう。

同級生が死んだ。彼を今更友人と呼ぶことは、失礼にあたるだろう。でも、落葉を掻き集めるかのように、思い出の辺境が蘇って行く。誰かの死を上手く解釈できるなら、この世界の諍いはもっと減っているだろうに。

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