心が痛む。
「これ以上あなたと居ると、私の心が痛むの」
「こころがいたむ」
僕は確かめるようにそう繰り返してみた。こころが、いたむ。それは意味を付帯しているようで、ただの語感的なオブジェのようにも捉えることができた。
「こころがいたむと、どうなんだろう? 」
「ねぇ、ふざけているの。これは、あなたが原因なのよ」
「ふざけてなんかないよ。僕は真面目に考えているんだ。君の心が痛むと、いったい何が問題なんだろう? 」
「……話にならないわ」
彼女は塞ぎ込んでしまったが、席は立とうとしなかった。いよいよ、この問題は迷宮入りしてしまった。心が痛む。現代アートを模写した上で説明を強いられている様なやるせなさが僕を襲った。心の痛む経験が、僕は乏しいのだろうか。分からない。他人というものはどこまで深入りしても、分からないものだ。
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