弾けない楽器。

死んだ彼の部屋には、弾けない楽器が雑多に置いてあった。

彼は、奇妙なほど弾けない楽器を愛していた。それはちょっと病的な、あるいは性癖とも言えたのかもしれない。

「ねぇ、弾けるならまだしも、どうしてあなたは弾けない楽器をそこまでして収集するの? 」

彼は答えてくれなかった。部屋には、名前も分からない楽器が積み重なるばかり。埃を被って、沈黙を守っている。

一度、彼が楽器を破壊しようとしている所を目撃したことがある。彼は、彼なりに悩んでいたのかもしれない。彼の過去の中に、楽器を弾けない何かが隠されているのかもしれない。

死んでしまったのは、彼だけでなかった。私は、楽器の埃をはらうことで精一杯だった。

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