沈黙の口論。
「一度、お互いに黙らない?」
カフェテリアの喧噪は、集合となって僕の全身を撫でる。羽虫が蠢くように。あるいは、聖母が男娼をさすってやるように。
「しかし、そうしたって問題は……」
「叫ぶわよ、私」
彼女は凜とした表情でそう言った。僕は彼女を刺激しないように、溜息を飲み込んだ。急いで薄くなったアイスコーヒを口腔に塗り込み、脹ら脛で椅子の脚を歪めようとする。居たたまれない。煙草も酒もそれに類するものも、近辺には何もない。
彼女は表情筋を強ばられたまま、黒染めの汁をストローで摂取する。頸筋も鎖骨の周辺も、血管に緊張感が浮き出ている。言葉を禁じられてしまうと、一体どのように状況の改善を目論めばいいか見当が付かない。パントマイムもモールス信号も、言葉と比較してしまえば余りにも無力だ。僕は手の置きどころすら定まらず、ついには呼吸のリズムを忘れてしまった。動悸が激しくなり、思わず胸を押える。彼女はそれを冷たい視線で把握する。
「私が言いたいのは」
二十分ほど経過してから、彼女は口を開いた。
「今の貴方の何十倍も、そうやって苦しんできたということなの」
僕は動悸の後のしこりを撫でながら、その言葉を頭でそらんじた。
「これ以上黙っていると、叫ぶわよ」
そう、問題はまだ何一つ解決していないのだ。