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逃避行。

普段降りる駅を俯瞰すると不思議な心地がする。ちょっとした不具合が重なって、僕は電車の席から腰を上げることが出来ない。同じ学校の制服を着た生徒が団子になって降りていく。僕は車窓を挟んで、彼らをぼんやりと眺めている。斜向かいに座る、スーツを着たサラリーマンは僕を見て顔をしかめる。

ガタンゴトン。ガタンゴトン。一定のリズムが気持ちいい。ガタンゴトン。ガタンゴトン。僕の学校生活も、トントン拍子で進めば良かったんだけれども。酒も煙草もない僕は、大人達よりずっと苦しい。少し着苦しい制服は、僕の窮屈な心とどこか似ている。ガタンゴトン。学校から離れていくにつれて、心は穏やかになる。しかし、そこにはやはり虚しさが含まれている。


ガタンゴトン。ガタンゴトン。どこの路線を走っていても、列車の音はいつも一定だ。僕はこの音を聞いて、ふとあの時の心の機微を思い出す。歯を食い縛る日々よりも、数少ない逃避行の方がよく記憶に残る。

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