来訪猫。

 家に半ば住み着いていた黒猫が死んでから数ヶ月。たがが一匹の猫の消失に、僕は小さくない影響を受けていた。魚の骨や皮を取っておいたプラスチックのトレイ。今でもふとそこに皮を置いてしまう時がある。魚の脂はべっとりと何かの印みたいに残ったままだ。

 祖父が遺してくれた庭は広い。僕はぼんやりと松の木に積もった雪を眺めていた。雪の上には、蹄の跡や小鳥の紅葉の様な足跡が残っている。この庭も、自然の一部であることを思い知らされる。僕と動物達は、ある尺度から見れば同じ側に属しているのだ。

 僕が珈琲を淹れてから籐椅子に戻ると、庭に来訪者がいた。猫だ。岩影から僕を覗き込むようにしていた猫は、目が合うとサッと逃げ出してしまった。僕は笑った。あの時もそうだったな。僕はプラスチックトレイに置かれた今朝の鯖の皮を皿に移した。

 回ることを止めない自然のサイクル。その中で僕は、どのように立ち振る舞っていくべきか。

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