1/N。

私が身辺整理をしていることを知らないで、彼は彼の人生を全うしていた。私の人生に介入してきたのは、彼の方なのに。まるで、私がお節介を焼いていると言わんばかりに、彼は私という存在を忘れているようだった。

彼とは月に一度くらい会っていた。何軒か飲み歩き、終電で帰る関係性だった。私はそこに、魅力なるものを認めざるを得なかった。しかし、私には好むと好まざるに関係なく交際をしている相手がいたし、私としてはごく一般的な貞操観念を持ち合わせていた。彼が私に興味を持っていることは理解しつつも、自分からは隙を見せないように留意していた。

しかしあの夜、彼は私を誘った。私の脳は乱れた。本能では彼を求めつつも、あと一歩の勇気(これを勇気と呼んでいいのか私にはわからないけれども)を踏み出すことができなかった。私は彼の誘いを断ったが、同時にジャンクションは切り替わった。私は身辺を整理し、彼を受け入れることを誓った。

交際相手とは控えめに言って上手くいっていたから、その整理に私は沢山のものを差し出す必要があった。しかし、私は盲目になっていた。押さえつけられた欲望の渦は、私の周囲の人をも飲み込む力があった。彼や共通の友人と諍い、傷つけあった。それでも私の瞳には、彼しか映らなかった。

その間にも彼が彼の人生を全うしていることを知った時、私はどうしていいか分からなくなった。私には彼を把握する第三の目なるものが備わっていて、彼が繁華街で私ではない女性と手を組んでいる瞬間を目撃した。彼は、たった一ヶ月で三人の女性とそうしていた。私はそこに含まれていただけであることを、どうしても認められなかった。

彼は今日も、誰かと寝ている。それを思っても、私は彼に抱かれることだけを望んで、目の前の相手を傷つけている。

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