早美。

早美(はやみ)の人生の盛りは、十五歳だった。正確に言えば、十五歳と六ヶ月半。早美は絢爛とした舞台上で、その日を迎えた。その瞬間、早美は世界でもっとも端麗で、舞台はその瞬間のために誂えられたといっても過言ではなかった。

しかし、人の一生には盛りがあることは摂理である。早美も例には漏れなかった。しかも、若さが仇になった。その有り余るエネルギーの全てを、早美はその瞬間に注ぎ込んだ。その反動は、我々の想像力の範疇を越えていた。早美自身も、まさか自分の盛りがたった今終わったとは、露も思わなかった。

周囲の人間も、初めは見間違い程度の違和感しか憶えなかった。殊更に思春期は変化が催されるものだから、それは一時的なものだと信じて疑わなかった。しかし、早美の美しさや内に秘めた魅力までもが、日々確実に失われていた。多くの人はそのことに気づけなかった。忘れられる運命を辿ることを、早美はずっと受け入れられなかった。

早美は二十七歳になった。十五歳までに象られた価値観を捉え直す余裕が、早美には残されていなかった。美しさは、時に当人を傷つける。我々はそれを消費している事実を、せめて自覚しなければならない。

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