夜径。

4人乗りのセダンを運転していた。街灯の少ない夜道。誰かがひょいと飛び出してきそうな夜だ。そう思っていたから、ブレーキの反応がぎりぎりで間に合った。

「ごめんなさい」

泣き出した青年をみると、不憫に思えた。

「このまま帰す訳にはいかない。はなしを聞くから、助手席に乗りなよ」

青年は頷いて、助手席に乗った。青年は、100社以上の会社にエントリーシートで拒絶され、干支が一周するくらい付き合った彼女に不倫をされたのだという。なるほど、確かに同じ立場でこの夜を迎えていたら、そうしていたかもしれない。そう考えていると、突如いやな予感がして、僕はブレーキに足を付けた。案の定、長髪の女性が飛び出してきた。

「ごめんなさい」

泣き出した女性をみると、不憫に思えた。

「このまま帰す訳にはいかない。はなしを聞くから、後ろに乗りなよ」

女性は頷いて、後部座席に乗った。女性は、浮気相手との子供を孕み、浮気相手と夫の両方から中絶を迫られていたのだと言う。なるほど、確かに同じ立場でこの夜を迎えていたら、そうしていただろう。しかし、とりたてて特技がないと思っていたが、僕は誰かが飛び出してくるかもしれないという直感だけは妙に聡いらしい。そう考えていると、虫の知らせが脳を揺らした。ブレーキに足を付ける。しかし、コンマ一秒遅かった。やれやれ、僕が女性の生態を理解できる才能があれば、絞首されずにすんだだろうに。

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ガードレールに直撃し、大破した車内にいた奇妙な3人。世間は最後まで、自殺願者を乗り合わせた車であるという結論に至らなかった。

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