子獏。

泥のような睡眠が唯一の誇れることであったというのに、ここ数日は丑三つ時に目覚めてしまう。僕のささやかな人生において、それは太陽の黒点が消えてしまうくらいに大きなトラブルであった。眠りが妨げられてしまうと、昼間はずっと夢見心地だし、体は鉛のように重くなる。僕は、我が家のサンクチュアリになにか胡乱なものが紛れ込んでいることを悟り、ベットの下にトリモチを敷いておいた。案の定、子獏が捕らえられた。

「やはり君だったか」

子獏は、目を潤ませ震えた声で嘆願した。

「ごめんなさい、命だけは」

「しかし、僕だって眠りを妨げられると、少々都合が悪いんだよ」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

迷惑な存在ではあるが、こうも子供に平謝りされると気の毒に思えてくる。

「よし、分かった。君が夢を食う練習台に僕を使うのは認めよう。その代わり、僕が今後悪夢に魘されるようになったら、君が責任をもって食べてくれよ」

子獏は、目を輝かせた。

「ありがとうございます、必ず約束します」

まさか、後に悪夢病なる流行病が世界を覆い尽くすなんてゆめゆめ思わなかった。おかげで僕は、立派に育った獏に毎日お世話になることとなった。本当に、売れる恩は売れるうちに売っておくべきだね。

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