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酩酊。

 激しいクラクションが僕を現実へと引き戻す。僕はぼんやりとした頭で必死に状況を整理する。クラクション。酩酊。徒歩。そうか、僕は車道を歩いていたのか。

 やがて、自分の記憶がすっぱりと断絶していることに気付く。どこまでを覚えている?自分に問いかけ、茂みに刹那的な嘔吐をしたことに多い当たる。そこから、記憶をなくしたまま歩いていたとは俄に信じがたい。距離にしては数キロあるし、それなりに分岐点もある。なにより、大きな橋を渡らなくてはならない。冬空の冷たく強い風を受けて、記憶を飛ばしたまま歩き続けるなんて可能なのか。しかし、クラクションを鳴らされるまで、僕はせっせと自覚無きままに歩き続けたことはどうやら確からしい。意志なきままに長い橋を、川を渡りきったのだ。

 やれやれ、これじゃあ三途の川を渡ってしまったみたいじゃないか。僕は昨晩、ある側から観たらすっかり死んでしまっているのだ。

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