ジャズドラム。
「あの人のドラムを聴いたことはあるかい?」
「いや、初めてですね。」
「君も随分足繁く通ってくれたけど、ようやくだね。あの人のドラムは絶品なんだよ。」
僕はウイスキーのシングルを口に運ぶ。
彼の「Whiplash」は想像以上に芸術的であった。めくるめく転調をギルティなほど余裕をちらつかせながら見事に表現していた。
僕は彼にチップを差し出した。
「ありがとうお兄さん。何かリクエストは?」
「…『Drums Unlimited』から一曲。」
彼は不敵な笑みを浮かべ、キックペダルを刻み始めた。僕はウイスキーを口に含んでから、ふとそのリズムの違和を感じ取り首を傾げた。すると、彼は演奏を切り上げて僕に近づいてきた。
「…どうして首を傾げたんだい?」
「レコードのリズムと少し違ったから。」
「君は完璧なリズムが好きなんだね?」
「…そうです。」
「なるほど。じゃあもう一度始めから弾かせてもらうよ。」
しかし、酒場に生じた不調和は演奏を殺してしまった。僕にはジャズがまだ分からない。