他人の人生。

男は、他人の人生を生かされていることを確信した。


男はずっと悩んでいた。自分の思考と行動が一致しないことが度々あったからだ。自らの意志に反して動く身体に、男はひどく悩んでいた。昔からそのようなきらい自体はあったが、それは一時的なものであることがほとんどだった。男の人生は少々のトラブルを孕みながらも、概ねは華々しいものだった。

しかしある時からそのきらいは恒常性を増していき、思考が反映されない時間が一秒、また一秒と長くなっていった。きっかけは何なのか、いつもたらされたのかは男にも分からない。ただその事実は真綿で絞首されているかのように男を苦しめた。自らを律しているという事実からもたらされる自尊心が、男の数少ないよすがだった。心の内奥に秘めた他人への卑下で保っていた心のバランスが、徐々に崩れていった。


男は酒に浸るようになり、憂鬱な気持ちを常に抱えるようになっていた。意志はすでに身体を全く動かせないようになり、男は呆然とすることしかできなかった。

「まるで、他人の人生を生きているみたいだな」

ふと口にだした言葉が、男の判然としない脳内を調律した。そうだ、俺は今他人の人生を生かされいるんだ。男はそう確信して、自らを冷笑した。

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