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【家賃からの解放】 ビットコイン奇譚

岡部くん(仮)

まぁ、岡部くんが行方不明になってしまったのは、仕方がないことといえば、仕方のないことなのかもしれない

誰しもが、ビットコインがこんなにも価値あるものになるなんて思わなかったろうし

何より、最初はそういったお金儲けであるとか、投機目的で、ビットコインを始めたわけではなかったのだから

ビットコインがまだ、世の中にこれほどまでに知れ渡っていない頃

プロダイバーな弟子がおりましてね、便宜上、名前を「岡部くん(仮)」とさせてください

「海護(アマモ)る活動を応援したいです!」

ダイバーで、しかもプロともなると、海に潜る回数も相当なものになる

海のゴミや汚染を目の当たりにすることも、たびたびあり、そのたびに心を痛めていたのだそうで

そんな熱い想いをぶつけてくれるものだから、いろいろとお手伝いしてもらうようになったのです

ーーー

京風会(仮)

ある朝、京都の風情ある町家が、泣く泣く取り壊されるというニュースを見かけた

町家とは、俗に「ウナギの寝床」などと呼ばれている、京都の街中に古くからある建築物のこと

入り口が狭く、奥の方にずっと細く長く続く造りになっていることから、そう呼ばれている

なんでそんなことになってしまったのかといえば、昔の税金が「入り口の広さで決められていたから」という、非常に経済的な理由からであった

なぜ「泣く泣く」なのかといえば、相続するのに莫大な相続税がかかるので、手放すしかない

取り壊さず、維持できないのか?

それだけ古い建物だと、維持していくのにもお金がかかる

莫大な相続税に見合うだけの売却価格は相当なものになり

それでも買ってくれる顧客は、その土地を有効活用して回収することができる人もしくは企業ということに

更地にして分割して売るか、そこにビルかマンションを建てるか、など

元の風情ある町家では、その相続税分に見合う収益構造を得るには難しいというのが現状

それで、現在の家主が苦汁の決断をしている、というのがニュースで流れていた

参考映像☟

どうにかできないかな…

たまたま京都の師匠に会う機会があったので、その話をしてみたところ、

みんなが思い描く京都を
京都らしい京都を、と

そんな「京都の風情をまもる会」へと発展していくことになってしまった

ーーー

中村師匠(仮)

生粋の京都生まれ、京都育ちを「京都人」と言うらしい

京都人は、ことのほか「京都生まれ」にやさしい

とある会に参加した際のこと

長年にわたり京都に住み、京都に貢献してきたという人から、うらやましがられたことがある

長年、貢献してやっとここに参加できた。なのに、アナタは…という具合だ

なんの貢献もしていないのに、京都生まれだというだけで、いけしゃあしゃあと参加していることが、気に障ったとはいかないまでも、喉に刺さった小骨くらいにはなったのだろう

中村師匠は、能面を造る人間国宝を父に持つ、京都でも指折りの伝統ある一族の末裔

能という世界は完全分業制で、役者は役者、太鼓は太鼓、面を造る職人は、一生涯、面を造り続ける、というのが習わしだという

自身は、そういった道に進まなかったまでも「京都の粋」を国内外に伝えようと、様々な取り組みをされていた

牡蠣好きなのと、京都生まれなのが相まって、”ことのほか” やさしく温かく接してくださっていたのである

ーーー

おばあちゃん家(仮)

生まれ育った京都の家は、太秦の映画村の近くにあった

京都に修学旅行にいったことがあれば、映画村はご存知なのではないだろうか

いずれにしても、有名な観光地なので、説明は割愛させていただく

祖父は生まれる前にすでに他界していたので、僕にとっては「おばあちゃんの家」ということになる

そのお屋敷は、かの帝国ホテルを設計した「フランク・ロイド・ライトの弟子」の手によるものだとかなんだとか

たしかに、木の窓枠から漆喰の壁に至るまで、和のテイストにも関わらず、ほのかに洋館を思わせる、いま思えば「和モダン」な造りだった

戦前に建てられたのだから、弟子如何は別にしても、本当に卓越したデザイン力があったは間違いない

まだ太秦の辺りが開発されていない、それこそ映画村さえなかった頃で、戦時中はそこで畑をつくり、食糧を得ていたというだけあって

ことあるごとに土地を切り売りしてきたとは言っても、その名残である広い庭園があり、

そこには、円山公園にある佐野藤右衛門の手による枝垂れ桜の、妹となる巨大な木が、満開の花を披露していたりもした

気が付けば、映画村や嵐山など、土地の価値もあがってしまっており、その広さも相まって、

祖母が他界した途端、京都ではお決まりとなった「とんでもない高額な相続税」が押し寄せた

すでに東京で成功して移り住んでいた長男である叔父が出した結論は、売却

その売却先がだした結論は、分割して分譲住宅を建てること

見事な枝垂れ桜は切り倒され、細かく分割された土地には、いくつかの新しい住宅が立ち並び、それは、さながらモデルハウスの展示場かのごとく

もし億万長者だったなら…

そんな悔しい想い出があるからだろうか、京都の風情ある町家が取り壊されていく映像をみて、思った以上に感傷的になってしまったかもしれない

その時から、どうしたらそういった建物を維持していくことができるのだろう、と調べたりするようになった

ーーー

財団法人(仮)

細かい説明は省くが、土地や建物を「寄付」するのであれば「相続税」は かからない

その引き受け手として、京都の文化財を保護する財団法人を中村師匠が用意してくれることとなった

でも「寄付」なのでね
元の持ち主には1円も入ってこない

問題は、そこだった

持ち主たちはみな「遺せるなら遺したい」という気持ちはある

が、経済的理由がそれを阻む、その無限ループからいかに抜け出せばいいのか

ーーー

町家存続システム(仮)

まだなんの税制も法律も整備されていなかった頃のビットコイン

あくまでデジタル上における数字とアルファベットの羅列にしかすぎず

誰が持ち主なのかも、特定することができない代物だった

がゆえに、使えるところも限られていた

ビッグカメラで、高値で転売可能な製品を買う

それをメルカリなどで転売して、換金することもできたかもしれない

町家を寄付してくださった方には、この価値があるのかどうか不明なビットコインなるもの、をプレゼントしていたかもしれない

ビットコインが理解できない寄付者たちに、誰かが換金をサポートしていたかもしれない

すべては「かもしれない」という仮想の話、だって「仮想通貨」ですもの

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為替手数料無料システム(仮)

どこから、そんな多額のビットコインが湧いて出てきたのか

海外と金銭の取引すると、為替という手数料が発生してしまう

これがそれなりに高額

オーストラリアから牡蠣の養殖機材を購入する際に、向こうの業者からビットコインでのやり取りを提案された

ビットコインってなんぞや?とは思っていたが、あまりにすんなりと、しかも為替手数料もなく決済できるので、ある程度、まとめてビットコインを購入しており…

そのプロジェクトも一段落して、しかもビットコインなんて普段使わない

その存在すら忘れていた

それが、まさかね、万馬券もびっくり倍率で…

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木下さん(仮)

町屋プロジェクトを仕切ってくれてたのは女性で、便宜上、木下さん(仮)とさせてください

町家保護だけでなく「海護(アマモ)る活動」など、海関係のプロジェクトも推し進めていく予定でしたので、

岡部くんを合流させることはなんら問題なかったのでございます

やたらと値上がりしてしまったビットコインをベースに「海護る財団」も創設してスタートさせよう!と

そうなんですよ
そこなんですよ

そのビットコインがめちゃくちゃ値上がりしてしまったあたりから、まずは岡部くんがおかしくなりだしたのです

要するに使途不明金が増えた、といえばそうなのですが、ことビットコインなので、まずは取引所で円を買って、それを銀行に振り込むという手順を踏むわけですが

ビットコインは日々その価値をあげていき、使っても使っても減らないので、彼のナニカが壊れてしまったというか、タガが外れてしまったというか

そうやって経費として使ってるだけでなく、まとまった資金として使いたくなってしまったのでしょう

そうなると理事会の承認が必要になる

ある日その理事会で彼は「5000万円貸してほしい」と言いだしたんですよね

そのときそこにいたのは、かつて海のことを熱く語っていた彼ではなかった

彼に与えられた選択肢は2つ

Aボタン
「金余ってるんだから、さっさとよこせよ!このやろう」

Bボタン
「そうだ、海護る活動のためにここにいるんだった。すいません」

彼が押したのは…

彼の言い分を要約すると
「もし金を出さないのなら、町家の寄付のカラクリを暴露しちゃうかもしれない」

そこからはちょい端よりますがね、僕を財団から排除しようと、他の理事たちや、その中核である木下さんを巻き込んでいくことになる

なんということでしょう

なにを隠そう、理事たちも木下さんも…なんと僕を排除する方向に動き出したんですよね、もうびっくり

そういえば、木下さんも子供の学費に使いたいって、そういうね

それが思うようにいかない、となるや、結果として「ややこしき人たち」が…魔がさすスキを開けてしまう

墓穴を掘らずんば金を得ず?!

「この財団にはビットコインが溢れてる!」と、ややこしき人たちにあっという間に拡まってしまったのです

ある日、京都に呼びだされましてね、突然に財団からの解任を言い渡されるわけです

理由は勝手に財団の資金をすべてビットコインに換えて、違法となる可能性のある町屋の取得行為を行ったこと

ビットコインに換えたんではなくて…この際、いいやそこは

まぁ、表向きは寄付したことにさせておいて、裏でビットコインを渡していたことに関して、それはどうなの?と言われたら…たしかにね

でもそうしないと風情ある「町家」は解体して細切れになるだけだったわけで

さしこんできた「魔」のひとりがこんなことを言いだしたんですよ

「たしか、おふくろさん、横浜に住んでるよな」と

母に手を出されたら困ります

手を引きましたよ
手を引きました
すんなりとね
そう、すんなりと

ーーー

京都の じゃりんこチエ(仮)

さてさて、かくして誰がこのビットコイン溢れる組織を手に入れるのか…というゲームとして盛り上がっていき

なぜだか、いつしか「岡部くん⚔木下さん⚔ややこしき人たち」の三つ巴の抗争に発展していったみたいで

正確には、ややこしき人たちは、岡部派と木下派の、それぞれ陣営に割れてしまい、なんと内部抗争にまで発展…したかもしれないし、してないかもしれないし

ビットコインは、加熱する抗争をさらに燃え上がらせるかのごとく、熱く炎上していき

2回ほど、2人に会う機会があったんですけど、なんだか焦燥しきってましたね…違う意味で別人のようでしたよ…魔って怖いですね

気軽に呼び込むもんではありませんよ
たとえ魔が刺したとしてもね

2人の話によると、どうやら、ビットコインの行方がわからない、ということらしい

ややこしき人たちは、岡部くんと木下さんが知ってるはずだと問い詰め、二人は「会計士」が知ってるはずだと言い続け

会計士は「ビットコイン」に関しては一切知らない、財団の口座に円として入ってきてからのことならわかるが「ビットコインを円に換金」する業務はやってないし、知らない、と

それで僕が呼ばれたわけです
「ビットコインはどこだ!」と

皆さん、ビットコインのなにがスゴいのかっていうとですね

「ブロックチェーン」という技術なんですよ

ビットコインは銀行口座のように個人や組織に紐付いてるわけではないんです

なんとインターネット上の「キー🔑」に紐付いていて、その「キー🔑」の持ち主=ビットコインの所有者なんです

であるからして、そうやって必死になって「組織」を奪いあったところで、肝心のビットコインは手に入らないんですよ

手に入れないといけないのは、インターネット上にある「キー🔑」の方なんでね

ちゃんと勉強してないからいけないんですよ、僕のせいではない

で、いまさらになって
「キー🔑を持ってるのはお前だろう!」と

はてさて…もしね、僕がそのビットコインを持っているのなら、なんでもっと良い生活をしないんでしょうか?

僕は家も金もありませんよ
どうぞ調べてください

信用がなさすぎて家を借りることもできないので、必要なときは弟子に借りてもらってる始末です

それに財団だってこの始末ですよ、とほほ

何度でも言いますけどね、もしビットコインで溢れているのなら、もっと良い生活しますし、なんだったら別に「財団」も立ち上げてますよ…

「こいつの言ってることはホンマや。調べさせたわ」

わかったなら、もうむやみやたらに呼び出さないでくださいね

「おい、岡部さんよ、お前だけなんよ、そのビットコインを換金して使いこなしてたんわ」

矛先はあらためて岡部くんへ向き、僕は解放されました。

帰り際に
「ホンマすんませんでした。活動、影ながら応援してます。なにか困ったことがあったら言ってください」と

困ったこと?なら、ひとつありますよ
でも、それはアナタたちが世の中から消えて無くなってくれれば解決しますんで

ま、言いませんでしたけどね

ーーー

それなり都市伝説(仮)

その後、岡部くんとは連絡が取れません

どこかに潜ってしまったんですかね…なにせプロダイバーですし…

・・・ と、たまにはですね、こんな都市伝説みたいな話はいかがでしたでしょう?

そもそもこの話を【家賃からの解放】に分類していいものやら、それなりに悩んだのですがね

京都の町家のプロジェクトは、フランスの有名ブランドとコラボしたり、1日1組限定の貸切宿になったり、そこに住みながら、様々な取り組みをしていくことができたり

ビットコインに関していえば、一気に稼いでしまって「家賃など気にする必要もなくなる」というのも、これまた家賃から解放されるひとつの方策ではないか?などと考えまして

風情を守ったり、海護(アマモ)を植えようと、始まったプロジェクトなのに、ややこしきヒトたちや税務署に追われる謎の犯罪組織を生みだしてしまっただけになり

岡部くんとともに、露と消えた…この場合、海の”藻”屑とでもいう方が妥当ですかね…ビットコインは、いまどこにあるものやら

それこそ、ダイバーの岡部くんとともに、深い海の底に…いかんせん、ビットコインはデジタルデータであるからして、それは無理というものですかね

というわけ?で
信じるか信じないかはアナタ次第です

ーーー

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それではまた次の章でお会いしませう

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