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『サラバ』西加奈子著 感想文~人生を愛すること~

面白かった~
余韻が二三日続いてます。

図書館で娘の為に絵本を借りる時に、私も読める小説を借りた。
一日一冊、三日であっという間に読み終えた。
赤ちゃんの子守しつつスマホを見ていると、罪悪感が湧くのだけど、文庫本だと少し許された気持ちになる。
同じかな?

あらすじがどうとか、解説っぽくまとめることはせず、ひたすら思ったことを書きたい。
読書会がしたいなぁ。

・サラバの正体
最初ピンと来なくて、又吉直樹の解説を読んでからもう一度ナイル川を再訪した場面を読んで、すごくよく分かった。
サラバの白い化け物は、歩の人生、過去、出会ったものすべて、歩自身。
化け物と表現する気持ちもよく理解できた。
歩がそれらをすごく恐れていたから。
母親や姉に怯えた幼少期はただただ嫌で、誰かを恨むべき過去。
美しい異国の友との思い出も長らく胸に封印していたし、再開しても二人を隔てる壁を想い嘆く過去。
二人の素晴らしい友に出会えた日々も自分の見栄や浅はかさを同時に思い出して振り返りたくない過去。
ライターとして活躍した輝かしい日々でさえ、現在と比べて悲しくなる過去。
歩は信じるものを見つけるまで、そんな風に過去を、自分自身を否定していた。
でも、それらを信じようと思った時、過去の全てを愛したんだね。その愛情表現としてそれらを言葉で書くことにしたのか。
そして、私達読者も、自分の過去を愛したいと思えた。
サラバ、時は止まらないのだから、確かにその名前はぴったりだ。
出会ってすぐ、私たちはさよならをしている。

・貴子
歩目線で物語を進めていたから、やっぱり厄介で迷惑で困った人。
アメリカから帰国してからもよく歩にそんな偉そうなことが言えるのか?と思ってしまった。
でも、父と母の別れの真相とそれを踏まえた父の生き方を知って、姉の考え方は間違っていないと思った。
自分の信じるものは自分で決めるべきだということ。
確かに貴子は迷惑な姉だけど、それに揺らいだり、全てを姉のせいにしたりする歩は、とても幸せになれない。
母も同じで、「父がいない中で幸せになろうとすること」はすごく自分の人生に対して健全だし、父にとっても幸せなことだと思った。
誰かのために…
誰かのせいで…
そんなこと言ってはいけないと痛感した。

・人生の辛さ
ご神木というあだ名がつけられるような外見。毛が薄くなる。姉が自殺する。婚約破棄した相手が幸せにならず病気で亡くなる。感じやすくて震災の被害に心のダメージを受ける。夫が家族と共に未来を生きず、過去のことに悔やんでばかりいる。
そういう様々な辛さが描かれているのだけど、それがとてもリアリティーがあって共感できるものも多いし、そういう人生のどうにもならなささみたいなものが胸に刺さった。みんなそういうものを抱えているのだなと。

・なんで回想ばかりの語り口なのに、こんなに面白いんだ。
イランの話から、いつ現在に時間が戻るのかな?と思っていたらずっとこんな感じだった。それなのに、こうも面白い。不思議だ~
西加奈子マジック?

・作者自身の体験談とか感じたことを物語に落とし込んだのかな?
出身地とか育った場所とか年齢とか職業とか、そう思わずにはいられないよね。でもちらっと読んだインタビューでそういうわけではないと書いてあった。にわかには信じられなかったが、西加奈子ほどの作家ならそういうことが出来るのだと思った。読者がああこれは作家の人生だ!と思わせるほどのものが書ける人なんだと思った。

・すこし不思議な話がやっぱり好き。
小川洋子とか川上弘美が好きだった。江國香織。
西加奈子の「きいろいぞう」も相当感銘を受けた。
こういうふわっとした中に残酷さもあるような話が好きらしい。
ミステリーとか社会的な小説はだめだ。

・出てくる文学的なワード何割拾えたか…。
ショック!ミランクンデラとか、うんうんと思えるものもあるにはあるけど、文化的教養高めていきたいねぇ。
映画の話でキムギドクがでてきて確かにあの頃流行っていたよな?とか思ってすごく幅広くてやっぱり作家とはこうもアンテナが鋭いのかと、当然のことながら自分との格の違いを感じた。当たり前じゃ笑

西加奈子さんの最新作、がんのはなし。
話題になっているけど読む勇気がない。
37歳のサラバ。33歳の私。
がんのはなしは40代になってからにしようかな。
なんて、そんな風に作家と私を重ねてみる。

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