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20歳と30歳。そして、また10年後に北海道。

旅の楽しみ


初めての場所を訪れる楽しみもあれば、繰り返し同じ土地を訪れる旅の楽しみもある。
再訪するときに感じる気持ちは、まちまちで「懐かしいな」「変わってしまって寂しいな」「落ち着くな」など決まったものはない。
同じ場所を訪れたからこそ、自分自身の変化を強く感じるような気がする。
自分の心の定点観測。
風景を観に旅をしたはずなのに、その場所で自分の心を見ることになる。
そんな場所が人生にいくつかあったら楽しいなと思う。

夏の北海道。


32歳の私にもそんな特別な場所がある。
それは北海道だ。
大人気の旅行先だから、小さい頃の家族旅行、大学時代の卒業旅行など何度も訪れた場所である。
でも偶然、20歳と30歳の夏に北海道を訪れており、その2回の旅行は特別な時間だった。

20歳の夏。


飛行機に乗せるために解体した自転車を組み立てて、旭川空港から走り出す。今夜は旭川駅の近くの安いビジネスホテルを予約してある。駅の近くで旭川ラーメンを食べよう。


自転車旅での休憩中の一枚



それは、私の初めての一人旅だった。
大学の自転車部に入っていた私は、北海道合宿が網走から始まるので、その日まで、2週間ほど一人で道北と道東をツーリングすることにした。
旭川空港から、オロロンラインを通って、宗谷岬へ。
そして、そこから南下して網走まで。
そこで私は旅の醍醐味である「人との出会い」を存分に堪能した。
北海道には、バイクのライダー向けのライダーハウスと呼ばれる簡易宿泊所がたくさんある。ゲストハウスブームよりもずっとずっと昔から安価で泊まれる雑魚寝のようなスタイルの宿泊所が北海道では求められていたから。私は、自転車のライダー(チャリダー?)としてそういった宿泊所を選び、北海道を旅する他の旅人と交流した。
20歳の女子大学生が泊まるのは珍しく、いろいろと良くしてもらった。傷心旅行でツーリングする30歳手前の男性や40代のロードバイクに乗るスポーツマンな男性、若い頃何度も北海道を旅したという60歳くらいの女性もいた。普段の生活では出会えない人たちと様々な話をして、シンプルに楽しかった。
一人旅の終盤、網走の手前のサロマ湖近くで、60代のロードバイクで旅する男性と並走した。途中の公園で、その方にコンビニ弁当をごちそうしてもらって「旅を良いものにしたいから、旅人は人に優しくする。だから旅で出会う人はみんな良い人だ」とにっこり笑顔で言われた。それは、ストレスの多い会社や都会の喧騒の中で出会う疲れた、イライラした人たちも、旅先で出会っていれば良い人になる…といった意味が込められていた。人間は一面性ではないというメッセージのように感じた。
また、中盤に出会った家族で車で旅している30代くらいの男性には若いうちに海外も旅したら良いと言われた。その言葉がきっかけで私は次の年にタイへ行った。
20歳の私にとって、旅先でかけられた言葉は、どれもその後の生き方に影響を与えている。

30歳の夏。


「お尻が痛ーい!限界」
私は叫びながら彼の背中にしがみつく。二人乗りバイクのクッションが硬くて耐えられなかった私は運転する彼におんぶしてもらうような状態になっていた。
「頑張れ頑張れ、この峠を越えたらいったん休もう」


二人旅のバイク

結婚式を千歳空港の近くの緑豊かなリゾート施設のチャペルで上げた。結婚式前の2泊を使って、札幌から富良野へバイク旅を提案した。自転車旅をしたときに、バイクで駆け抜けるライダーさんたちが憧れだったから。バイクの免許を持っていた彼は快諾して、私たちは富良野の田園風景の中を駆け抜けた。現実は上記の通り、私は久しぶりの二輪でお尻が痛くて泣いていたのだけど。
この旅で私は「家族との絆」を感じた。
富良野へのバイク旅が終わり、空港近くに戻っていくとそこに彼と私の家族が来ていた。コロナ感染の流行もあって、家族だけの式だったけど、遠方まで来てくれたみんなに感謝している。
20代の私は、新卒で入社した会社を辞めて海外を2年近く放浪した。バックパッカーに憧れたから。
旅を決めたとき父に「親は子のことを心配する。何をしたって心配する。だから心配かけないこととは言わない。でも、悲しませるようなことはするな。」と言われた。悲しいとは、犯罪をするとか、怪我をするとか、そういった意味だとも語った。母は、私の選択を決して否定せず、いつも優しく話を聞いてくれた。そんな暖かな思い出を思い出した。
夫と新しい家族を築いていく責任と何よりもお互いの家族への感謝を感じる旅行だった。

未来の夏。


私は40歳の夏にも北海道を旅したいと思っている。
去年の12月に可愛い可愛い小さな娘が誕生した。新しい家族と車で北海道を旅したい。
変わってしまうものもあるだろうけど、北海道の大地の本質は揺らがない。
照りつける太陽の日差しと青々とした草原、田園を貫く一本のまっすぐな道。
その風景を家族と進む時、私の心は何を感じるのだろうか。

#わたしの旅行記

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