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今さらネクロダンサーを紹介する自由

 皆さんはリズムゲームというモノは好きだろうか。
 アップテンポな曲に合わせて体を上下にゆすりながら気持ち悪い速度で指や足を動かす楽しいジャンルだ。フルコンボを出した時には気分のいい音楽を聴いていたのもあって絶頂するかのようなテンションになることも多い。
 たとえフルコンボを出すことが出来なくとも、音楽にノってボタンを押すだけで十分に楽しむことが出来る。面白いジャンルだ。

 事実として音楽が心理にいい影響をもたらすことは様々な研究により実証されており、それがゲームにも反映されることは自明の理である。ゲームセンターにおけるリズムゲームの幅の広さがそれを裏打ちしてるともいえよう。
 音が良すぎてゲーム外に持ち運んで聞くなんてことも日常茶飯事だ。

 ところでローグライクというモノも好きだろうか。
 日本では不思議なダンジョンという名前でも親しまれているジャンルだ。
 遊ぶたびに、地形や落ちてるアイテム、敵の位置などが変わるというランダム性が強い性質を持っており、1000回遊べるなんてうたい文句と実際に遊んだ人間がいるというとんでもない実績も持っている。その性質から、困難な状況に出会った際にどうやって打破するかという悩みも毎回変わってくる。

 敵が目の前にいる。移動速度が速いから、吹き飛ばすだけじゃダメだ。混乱させてその間に次の場所へと逃げ込もう。
 敵が目の前にいる。さして厄介なタイプではないが、殴り合うにはこちらのHPが不安で仕方がない。吹き飛ばしたいけど吹き飛ばすアイテムがないので、勿体ないけど高火力アイテムを使おう。
 そういった様々な事象における『今はどうするべきか』という判断が大事なジャンルとなっている。

 これらがリズムゲームの楽しいところであり、ローグライクの楽しいところでもある。
 ではそんな楽しいジャンルが合体したらどうなる?


 それこそが『Crypt of the NecroDancer』というゲームで、まさかの面白さを生み出してしまった妙作だ。


1.リズムとローグライクの融合。そしてオミット


 『Crypt of the NecroDancer』。通称ネクロダンサーは先述の通りリズムゲームとローグライクを合体させたゲームで、そうとしか言いようがないシステムになっている。
 だが、斬新すぎてどういったゲームなのか想像も付かないと思うので順番に説明していこうと思う。

 ダンジョンに潜れば従来のローグライク通り、マス目があって敵がいてアイテムがあって地形があって全部ランダムでというのは変わりない。では何が違うのか。
 このゲームでは1ターンがリズムの1テンポになっているのである。

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 画面下部の両側から挟むようにノーツが流れてきて、真ん中の心臓に到達したときに1テンポ、行動タイミングが来る。当然ながら曲によってノーツの速さは様々だが、ノーツ同士の間隔は(一曲を除いて)常に一定。

 手拍子を適当にしてみるといい。そのタイミングで移動したり攻撃したり、どうやって行動するべきかを考えなければいけないと思えば丁度いいだろう。
 やってみただろうか。であれば思ったことが一つあると思う。
 そう、クソ難しいのである。移動だけならまぁなんとかといった具合だろう。
 さらに恐ろしいのはこの1テンポで行動するのは自分だけでなく敵全体もということ。たとえ自分がリズムにノれなくても敵だけは行動してくるし、暢気に呆けてるこちらをぶん殴ってくる。容赦がない。

 リズムゲームがゲームとして成立しているのは音にノる以外の要素がほとんど存在せず、考えることがないに等しいからだ。
 難易度の調整も、ボタンの数を増やすだとか、ノーツの数を増やすだとか音にノるための遊びの幅を広げるという形で、リズムにノることを阻害するような要素はそうそうない。であるならばローグライクのような考えることが多いジャンルは合わない筈じゃないか。

 この作品ではその解決策が天才だった。

 その策とはローグライクにおける様々な重要要素を取っ払うという大胆な物。それでいてローグライクとして認識できるのだからとんでもない手腕である。
 例えば、インベントリという概念が実質なくなった。
 持てるアイテムは基本的に装備アイテムと爆弾と消費アイテムと魔法が一つずつぐらい。持っているかどうか考えるのは合計3つぐらいか。
 さらには使わなきゃいけないボタンも凄い減った。使うアイテムなんかないんだからそんなにボタン押すことなくない、といったところである。
 

 消費アイテムや魔法を使う際にはボタンを押す必要はあるものの、基本的には移動ボタンだけで全てが解決してしまう。移動ボタンでは『移動』と、そして『移動先に敵がいたら攻撃』が出来る。それだけ。
 上か右か下か左か。それ以外のことを考える必要が殆どなくなったのである。
 なんなら、PC版であればアイテムの使用すら『上+左』とかで矢印キーしか使わせないレベル。

 「考える要素がないんだから考える時間なんていらなくない?」とばかりに出来ることが減ってしまった。これにはローグライク好きもびっくり。

 えっ、それって楽しいの?

 ローグライトならともかく、ローグライクなんだから考える要素がないって致命的じゃん。そんなので面白いゲームなんて言えるのかよ。
 言えてしまうんだなこれが。

 インベントリの削除と操作の簡略化という形で考える要素がとても減った一方、新しく増えた要素もり、それがローグライクという部分における考える要素として大きく作用した。

2.音楽にノって楽しいのはお前だけじゃない

ローグライクである以上敵が存在して、各種類によって様々な行動をしてくるわけだが、これがまた見てるだけで面白い奴らばかりで、それが故に対処に困るものになっている。
 例えば青スライム。

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 こいつは本当にただの青いスライムで、特に特殊な攻撃もしてこない。こっちにも寄ってこない。じゃあ何をしてるのかと言えば、リズムにノって延々と上下に移動するだけ。実に可愛らしいものだ。

 そう、このゲームではプレイヤーだけでなく、敵すらも音楽にノって各々が好き放題に行動するのである。
 ゾンビはさながらスリラーを踊るかのように左右へ往復し続けるだけだし、コウモリは適当に動くだけ。

 とはいえ。こういうやつらは一人で楽しそうにしているものの、当然ながら他の大半の敵はプレイヤーに向かって攻撃をしにくる。
 例えばスケルトン。こいつは1テンポ目で両手を上にあげ、2テンポ目で腕を下げつつ前進。左右にゆらゆら揺めきながらアップダウンアップダウンと楽しそうにやってくる様は、とても単純な動きもあって可愛らしさも覚えてしまう。
 ツノがハープになっているミノタウルスは、こっちを見るやいなや突進してくる。何も考えず突っ込んでくるせいでプレイヤーが避けてもその勢いは止まらない。壁に当たるまで進み続け、ぶつかったら気絶する。

 そんな奴らが集まれば部屋はたちまちパーティ状態。主張の激しい登場人物たちは、互いにぶつかって道を譲らないなんてこともあれば、壁を壊して無理やり押し通るやつもいて、音楽にノれたらなんでもいいんじゃいと言わんばかりだ。

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 プレイヤーにぶつかって気絶したミノタウルスに左右に踊るゾンビ。スケルトンはミノタウルスが邪魔で動けず、スライムは上下に飛び跳ねるだけだしコウモリに至っては完全ランダムに移動。自由気ままだ。

 ここで問題なのが、奴らは好き放題に踊ってはいるが敵にはかわりがないということ。プレイヤーはこいつらの対処に追われることとなる。
 

 例えば上の状況に出会ったとしよう。
 左に逃げればコウモリに攻撃されるかもしれない。上に行けばミノタウルスが起きてすぐに突進の準備に入られる上に寄ってきたスケルトンとも隣り合わせだ。右でもミノタウルスが起きるのは同じだし、なんならコウモリが前を防いできてさらに危ないかもしれない。
 ならば下だ。下であればまだスケルトンは準備段階だし、コウモリの動きも1テンポ分見れる。ミノタウルスが起きてもまだ距離があるから対応の時間がある。順番に倒していこう。
 そんな具合で様々な思考を重ねることになる。

 さらには、同種族でも動くテンポはバラバラなので2体のスケルトンが交互に行動してきて混乱するなんてことも多々ある。深い階層に行くほど、遅いテンポでいつ行動するのか分からなくなる奴や、斜めに移動する奴、状態異常などの厄介な攻撃をしてくる奴なんかも増えてきて対処する順番も重要になってくる。

 今はどういう状況なのか。下に移動したとして攻撃は食らわないのか。今攻撃すると別の敵から攻撃を食らったりしないか。そもそもどいつから殴るべきなのか。引くべきならどのルートを通れば安全なのか。持ってるアイテムで対処できるのか。
 そういった『情報と取捨選択』というローグライクにおける重要要素が、能動的な行動手段が少ないにもかかわらず、敵の存在だけで表現されているというのがこのゲームにおいて実によく作られた部分だと言えるだろう。

3.無理やりにでもノらせてやると言わんばかりの気概

 でもそんなこと言ったってやっぱりリズムにノること自体が難しいでしょ? 音楽にノって楽しいのは敵だけだったりするんじゃないの。
 そう思うのも無理はない。実際難しいのは確かなのだから。
 しかし、よく考えられた様々な要素によって、ガンガンノっていきたいと思わされる作りになっている。
 まずはコンボボーナス。上手くリズムにのって戦い続けると、1テンポ毎に地面が2色に交互で光り始める。それはミラーボールを彷彿とさせるビビッドな色合いで、まるでディスコで天才的な踊りをしているかのような錯覚を感じさせられる。

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 ステージ1だと緑と紫。ちなみに筆者はディスコにもクラブにも行ったことはない。イメージしかないにもかかわらずこの演出だけでウキウキになるというのだから凄い。あるいは筆者が単純すぎるのか。

 この状態で敵を倒すと心臓下にあるボーナスが最大3まで増えてそのまま維持し続け、敵を倒した時に落ちる金が増えていく。
 音楽にノっていくだけでお金が増えていくなんてこれほどの贅沢があるだろうか。ショップで買うアイテムはそれなりに高価なので、積極的にノっていこうと思わせられる。

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 値段が高いと300を超えたりする。あと店の店員は曲に合わせて歌いだす性質を持っていたりもする。何故かは知らないがつられて歌ってしまう良さがある。ふくよかなのも愛らしい。

他にも、武器やアイテムにはオプションがついていることがあり、その中でもオブシディアンというオプションはノらせることに特化している。

 オブシディアンは、コンボボーナス分の性能を持つというオプションだ。つまり武器についていれば攻撃力が3まで育つ。このゲームの大体の敵のHPは1~3なのでそいつらを1撃で倒せるということになる。ミノタウルスのようなガタイの大きい中ボス連中でも1体を除いて6以下なので、2撃で倒せる。

敵が簡単に倒せるということは取れる行動が増えるということなので、これほど強いこともないだろう。しかし調子に乗って集団に突っ込み、対応をミスった結果弱くなってリカバリーが難しい、なんてこともあるので無敵というほどでもないのがいい味を出している。

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 この状態だとボーナス数値通り3ダメージを与える武器となる。

 そして何より、ノりたくなるBGM達が存在しているのが大きいだろう。聞きやすくてテンションの上がる曲が多く、かっこいいと思わされるばかりだ。

 実はこのゲームにはボス戦というものがある。
 それなりの広さの空間でそれぞれがギミックを用いた攻撃をしてくる、というステージなのだが、各ボスにはテーマ曲が設定されており、ギミックと相まって気持ちよさが尋常ではない。

 やはり印象的なのはキングコンガだろう。キングコングではない。キング『コンガ』だ。こういう各所にあるちょっとした名前ネタも面白い。

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 このボスはステージの上部で玉座に座り、コンガを叩いて部下の大量ゾンビに戦わせ、最後にゴリラ本人が戦うというギミックを持っているのだが、様々な面でインパクトが強い。

 まずBGM。ここに来るまでに通った通常ダンジョンでは、先行き不確かな闇のダンジョンを潜る、というイメージが浮かぶような重低音が利いた曲ばかり。

 そんなところからキングコンガにたどり着けば、名前の通りコンガを用いたテンポが非常にいい曲が流れ始める。
 野性味を感じられる力強いサウンドがノれよと言わんばかりで、困惑とワクワクが暴れ始め、いざ戦わんと扉を開ければゴリラとゾンビの行列が待っていたぞと言わんばかりに出迎えてくれる。

 ドゥッデッデ、ドゥッデッデ、ドゥッデッデッデといような曲に合わせて、うおおお! よし尋常に戦わんと上がったテンションで立ち向かおうとすれば、ここでまさかの突っかかり。

 こいつのテーマ曲はゲーム中おそらく唯一の休符持ちで、8テンポ毎に行動してはいけないタイミングが来るのだ。
 良すぎる音楽と多すぎるゾンビによってよくなった気分が、えっ、行動できないのかよ!? と挫かれるのも束の間、その休符のタイミングでやたらとリズムのいい手拍子が入り、謎の気持ちよさを感じさせられる。

 そうしてミスったら急にウホウホという声が聞こえ、何事かと思えば急にゴリラが玉座を降りて襲いに来る。
 そう、まさかのこいつ、音楽にノれなかったら怒りに来るのだ。音楽にノれてる間は楽しそうにコンガを叩いているだけというのもあって、なんだか面白い奴だな、という印象を与えてくれる。

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 直接殴り込み状態。このときは殴ってもダメージを与えられず、玉座に戻すだけ。ちゃんとゾンビを倒せということになる。

 そんなちょっとややこしい曲ではあるものの、ステージ構成はよく練られており、正しい位置に行くことが出来ればやってくるゾンビを順番に叩いていくだけで攻略することが可能だ。
 この順番に叩く、というのがまた気持ちよく、曲がいいせいで自分までもがコンガを叩いているような気分になる。

 さらに嬉しいのは、ボス戦では曲にノりきってノーミスでクリアするとボーナスアイテムが貰えるシステムになっており、「リズムゲームをフルコンボでクリアしてやったぜ!」みたいな達成感を得られて非常に嬉しくなる。

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 ボーナスアイテムは宝箱3つから一つ選べる形。フルコンボおめでとうありがとう!

 ボスは他にも複数存在しており、テンポがかなり速いデスメタルのテーマ曲を持つ死神のような姿をしたデスメタルというまんまなボスや、重たい弦がとても響くブルースを流す、チェスをモチーフとしたディープブルースというボスが居たり、このゲーム一つだけで様々なジャンルの音楽を楽しむことが出来る。

 DLCを除いたゲーム中に遊ぶことになる楽曲はせいぜい20曲程度。リズムゲームと考えた時に単純な数で見たら少ないと思うかもしれない。

 だが複数いる操作キャラクターのうち何人かはアレンジでプレイすることが出来、それほど少ないと思うことはない。
 それに、曲というものは聞けば聞くほどに体に馴染んでいくもので、ローグライクとして何度も遊んで行くうちに、気づけば無意識に操作しているほどのトランス状態に入ることすらある。この時の全能感の気持ちよさったら早々味わえないもので、もし楽曲が無暗に多くてトランスに入る時間がさらにかかってしまうと考えたら、楽曲が少ないというのも利点だと思える。

 とはいえ、たまにはちょっと飽きたな、なんてこともあるかもしれない。そんな時は楽曲を変えることも可能だ。

 PC版であれば、特定のフォルダに入れている楽曲を読み込ませて自分でビートを設定することによりゲーム内に好きな音楽を導入できる。
 やたらとテンポの速い曲もスローペースな落ち着いた曲も入れられるし、やろうと思えば普通のリズムゲームのように複雑なノーツを刻む楽曲を作ることもできる。

 コンシューマ版では、ローカライズを担当しているスパイクチュンソフトから『ダンガンロンパ』のアレンジ曲と、アーケードリズムゲームの『GROOVE COASTER』に実装されていた曲のアレンジから選ぶことが出来る。ネクロダンサーの元々の曲は当然素晴らしいものだが、この2タイトルにある曲もいいものばかりなので気分転換で変えても熱中できることだろう。

4.彩り溢れる細かな要素


 さて、どんなゲームでも武器は戦闘に楽しみを与えてくれる。それは簡素化されて合成のようなシステムがないネクロダンサーでも同じだ。

 初期武器はダガーで、目の前を攻撃するオーソドックスな性能。一応投げることもできるが、拾いに行くまで攻撃が出来ないのでリスクが大きい武器だ。
 一方ブロードソード。幅広な大剣で、目の前横三マスをまとめて薙ぎ払うことのできる性能を持っている。他のローグライクだとレア度が高くて手に入れずらい能力だが、このゲームでは割と出る方。

 個人的にオススメしたい武器はレイピアだ。
 レイピアは2マス先までの近い方にいる敵に攻撃できる。その際、2マス先の敵に攻撃する場合は攻撃力が倍になったうえで自身も前進することが出来る。フェンシングのように素早く前に出て強力な突きを行うような形だ。ただし、前進するのは必ずなので、一撃で倒せなかった場合反撃を食らうことになるため相手のHPには要注意しなければならない。

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 ここから――

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 ダッシュ突き!

 攻撃力の高さもさることながら、攻撃しながらの移動には優雅さを感じられ、敵の包囲網を捌ききったときの華麗なダンスを踊ったかのような陶酔感には、他では味わえない心地よさがある。

 移動しながら攻撃する武器はそれほど多くないため、見つけたら是非使ってみて欲しい。楽しさは私が保証する。
 まぁ前述の通り手順に気をつけなければ、裾を踏んだ踊り子のように間抜けをさらすことになるだろうが。

 他に面白い武器といえばフレイルだろうか。フレイルは棒の先に棘の付いた鉄球が鎖でつながれていて、それを振り回して当てる武器だ。モーニングスターじゃないのかと思われるかもしれないが、このゲームではフレイルという名前なのでご容赦いただきたい。

 フレイルは前3方向と自分の左右を攻撃することが出来、攻撃した際には相手を1ターンスタンさせて弾き飛ばす効果がある。
 これを利用して壁際で殴ると、壁でバウンドして死ぬまで殴り続けられるという仕様がある。リズムに合わせてスパンスパンとテンポ良くビンタしてるみたいでこれまた楽しく、前面攻撃無効の敵をサンドバックにしてついついやってしまう。

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 壁際でスパァン! 盾持ってるから何度でも殴れる。楽しい。

 さらには操作キャラクターを変えることによって、ダメージを与えられない武器や、そもそも武器を持ってないかわりに爆弾が無限に投げられるなんて攻撃方法に代わったりして、一風変わったプレイも出来たり。

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 ドーヴはダメージを与えられないが目の前の敵を混乱にすることが出来る花を持つ。敵が減らないということは一生敵がついてくるということなので回避方法を考えないと地獄を見る。

 そんな感じで攻撃範囲や色々な機能を持った武器が多数存在している。

 17種類に先ほどのオブシディアンを含めたオプションが5種類あり、それとは別にキャラ次第での特殊武器が数種類。オプション無しも入れて計算すると17×6+αで100種類は超える。書くために調べて驚いた。多いですね。
 それだけあれば、きっと誰でもお気に入りの武器とお気に入りのオプションが見つかるはずなので、夢中になれることだろう。とはいえ折角のローグライクなので普段使わない武器で遊んでみるのも楽しいものだ。


 あとは壁を掘るシステムも捨てがたい。
 基本的に初期状態からシャベルを持っているのだが、これを使って壁を掘ることができる。従来のローグライクと比べ、その重要度は遥かに高い。

 普通であれば使いすぎると乱数で壊れてしまうだろうが、このゲームでは壊れない仕様となっている。
 何故なら空振りというシステムを含んでいるからだ。

 ローグライクを遊んでいる状況で、攻撃が届かない位置に敵がいて、特にアイテムを使う必要がない場合はどうするだろうか。
 何もない場所を殴ってターンを消費し、敵を近寄らせてから殴ることだろう。

 ではこのゲームでは?

 そう、移動かアイテム使用しかボタンがないので空振りが出来ないのだ。
 じゃあどうするのか、というとここで壁堀りが出てくる。壁を掘ることで1ターンを消費し、敵を寄せ付けて攻撃をする、と空振りの互換として機能する。

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 スケルトンが来るけど前に行けば攻撃を食らうし後ろに下がるのはキリがない。ならば……

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 壁を掘って1ターン消費。立ち尽くしてコインボーナスを失うよりもはるかに賢い。

 移動とアイテムしか行動できないようにするが、しかしローグライクである以上空振りといった様子見の行動は取れるようにしないとどうしても厳しい。

では、どうするか。

『移動出来ない方向に移動させてターンを消費させる』というこれまた早々出ない思考が出た。
 移動できないのに移動させるという矛盾。それを壁を掘る、というシステムで成立させるその発想には脱帽するほかない。

 そして、当然ながら壁を掘るとそこには穴が開くことになる。まさかの別の部屋に繋がり、敵が流れてきてあわや大惨事ということもあり得るし、もう一回空振りしたいけど欲しいところに掘れる壁がない、なんてこともたまにある。

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 追うと逃げて攻撃できないため、こちらが逃げるように壁を掘らないと倒せないゴブリンなんてモンスターもいる。放っておくと別の敵との交戦中にケツから殴りかかってくるため非常に厭らしい敵だ。

 ただただ空振りをして時間をつぶさず、ちゃんと音楽に乗って気持ちよく冒険してほしい。そんな開発者の心情を想像してしまうような、考えどころのあるシステムだ。

5.どこまでも丁寧に作られた繊細な職人芸


リズムとローグライクがいかに上手く組み合わせられたかという話をしてきたが、いかがだったろうか。

 勿論、それぞれの全部を取り入れることなどは出来ていない。

 数多のアイテムで多種多様な状況をしのぐ濃厚な思考パズルは再現できず、どちらかといえば瞬発力を重視した感覚ゲーとも言えてしまう。
 曲の流れに合わせた複雑で達成感のあるビートは設定されておらず、常に一定のテンポでリズムを刻むだけ。

 しかし、最小限で、なおかつ最高率で、各ジャンルを最大限に堪能できるような作り込みがこのゲームにはある。
 敵の特異な動きと自分の装備からくる『取捨選択の難しさ』があるローグライク要素。
 ボタンを極限まで減らしてシンプルに『いい音楽にノれる』ようにしたリズムゲーム要素。
 そしてそれらを楽しいと思わせる『個性豊かな武器や壁堀りといった細かなシステム』の工夫。
 とにかく丁寧に、それぞれのいいところを抜き取って上手くいくよう組み立てた奇跡を感じられる芸術的作品であると、少しでも認識していただけたらこのゲームを好きな一人の人間として嬉しく思う。

 これは余談だが、なんと任天堂の大作シリーズであるゼルダの伝説と奇跡のコラボレーションをしたこともある。
 それが『ケイデンスオブハイラル』というタイトルで、昔のような上から見下ろしの2Dゼルダの伝説を元にリズムよく冒険する内容となっている。
 従来のゼルダの伝説とは違って、地形なんかもランダムになり、何度でも楽しめるつくりになっているためゼルダの伝説フリークの方なら是非遊んでみてほしい。当然のように楽しめるはずだ。

 


 音楽というのは古代より大切に扱われてきた。
 明るい音を奏でれば気分が高揚してきたり、落ち着いた音を奏でれば荒んだ心を鎮めることが出来たり。
 聞くだけで精神に影響を与えることから、大衆の娯楽から軍事運用まで様々な形で利用されている。
 最小単位であれば、自分の手を叩くだけでパンと鳴り、喉を震わせれば声が出て、やろうと思えばいつだってどこでだって簡単に音楽を作ることが可能だ。
 ある意味では、生物に最も寄り添っている概念ともいえる。
 このゲームを遊ぶことで、その原初の概念を楽しむことを思い出していただけたら幸いだ。

 なにより、人間にはこのゲームのように生まれたときから心臓という楽器がついていて、リズムを永遠に奏で続けているのだから。

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