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物語を得た日本プロ野球

あけましておめでとうございます。
2021年になってしまった。

今回のエントリはなんとか2020年中に書き終えてしまいたかったが、年末にバタバタと書く案件が4つほど溜まっていたことに気付いて後回しになってしまった。何とも締まらない年の終わり方でまるで元・巨人クローザー石毛のようだった。

なのでしれっとこの記事は2020年中に書き上げていたことにする。記事内に【今年】というワードが出てきたらそれは読者が脳内で「あ、2020年のことねオッケーオッケー」と変換して読まなければならない。どうだ、想像力が試されるだろう。「今年の紅白、どっちが勝ったか知ってる?」からの「はいブー、正解は"今年の紅白はまだやっていない"でしたー」というク◯みたいなひっかけ問題はここの法では通用しない。ざまあみろ。

偉そうな書き出しをしてしまったが、前回の記事でも書いた、とにかく今年のプロ野球が面白かったなという話に戻る。

いや、本当に面白かった。ゲームひとつひとつのレベルは毎年洗練されていくのだから面白くなっていくのが自然なのだが、それ以上に日本プロ野球界全体が一つの大きな物語を獲得したことにオラムクムクしてしまった。その獲得した物語は何かというと、プロ野球をここ数年追っ掛けていた方々には説明不要だろうがこれである。

『CATCH THE HAWKS』

打倒、福岡ソフトバンクホークス。これだろう。
人気youtuber、副業で野球解説もやっておられる里崎智也さんは「STOP THE HAWKS」と言っていたが被らないようにこう呼ばせてもらう。

ホークスが強過ぎる。これが面白さの要因である。
4年連続の日本一はパ・リーグ初。日本プロ野球史で遡っても巨人V9時代以来とのこと。
そして何と言っても2年連続の無傷のストレート勝ち(4勝0敗)、このインパクトが強過ぎる。来年のコトバンク【手も足も出ない】の項目は

【手(て)も足(あし)も出(で)◦ない】の解説
施す手段がまったくない。力が及ばずどうしようもない。「ホークスが強すぎて―◦ない」「千賀に―◦ない」

と書かれても不思議ではないレベルのフルボッコだった。
日本シリーズの連勝記録に至っては2018年の第3戦から数えて12連勝しているらしい。3年に渡って勝ち続けている、チートってレベルじゃない。

普通、シーズン最終戦が終わった時は「〇〇日本一、おめでとう!」と湧き立ち12球団の関係者やファンがお互いを労うようにおつかれハッピーなムードになるものだが、今年の最終戦が終わった後のTV中継、その他解説者の発信する動画やニュースや記事や様々な媒体のムードはどうだったか。

まるでお通夜である。

特集の多くの議題が「どうやったらホークス(パリーグ)に勝てるのか?」だったり、やんわりと全体を包む「つ、つよすぎィ…」の空気に「一方的過ぎてつまらん」なんてことを言い出す人々(主になんj民)がいるがとんでもない!巨人ファンには少し申し訳ないが、ありがとう、あなた方のお陰で面白かったし、そして何よりプロ野球は大きな物語を得ました。

そもそも日本人のスポーツ鑑賞には「判官びいき」というバイアスがかかることが多い。
日大三高や横浜高校、大阪桐蔭の圧倒的な力での優勝を見たがっている反面、町の定食屋や銭湯の大テレビの前で応援されているのはいつも「それに立ち向かう小さきもの」だ。

「まけるなー」
「あきらめるなー」
「がんばれー」

はあっても

「もっとやれー」
「徹底的に潰せー」
「あと10点取ろう!」
「コールド!コールド!」

なんて言葉はそうそう聞けない。思っている人はそれなりにいてもおかしくはないが、定食屋でこの言葉が耳に飛び込んできたら口にしたかあさん煮を吹き出してしまうかもしれない。かあさん煮ってなんか怖い文字列だな。

今年の日本シリーズ第3戦を終えた時点で、もう後が無い巨人のことを応援し始めた人は多かっただろう。自分もどちらかと言えばそうだ。そう、あの瞬間巨人は「立ち向かう小さきもの」だった。読売小人軍の誕生である。だが結果は皆さん知っての通り、2年連続のスウィープ(4連敗)である。大きいものが順当に小さいものに勝った。波乱は、なし。沢北が流川を抜き、花道はケガで退場、河田が豪快にダンクを決め、メガネ君はこれが引退試合となった。カクとシオに関しては試合すら出ていない。現実とはそういうものである。

しかしお陰様と言ってはなんだが来年以降は『CATCH THE HAWKS』の文脈でプロ野球は面白い物語を紡げそうだ。
どの球団がホークスを倒すのか?この補助線を引くだけで見方がガラリと変わる。平良投手の直球を打ち返せば「お、これなら千賀も打てそうだ」とか、近本選手が盗塁を決めれば「甲斐選手だってこの速さは刺せないだろう」とか、「フン、俺はソフトバンクはやめて今年から楽天モヴァァイル!にキャリア替えするんだ!」など、生活にもハリが出ること間違いなしだ。

プロ野球の興盛は常に物語との付き合いだったと思う。
戦前は「職業野球」と半ば蔑称で呼ばれ、学生のやることを大人になっても続けているとは何事かなんて言われていた時代もあったらしいが、TV中継が始まりONの時代や巨人のV9があり、自分も知っている西武の黄金時代、がんばろう神戸からのブルーウェーブ優勝、球界再編問題から生まれた東北楽天は震災を乗り越え創設僅か9年で日本一に輝いた。震災や疫病なんてそもそも無い方が良いんだから「五輪で感動を!」なんてわざわざ持ち出さなくても、こっちは嶋選手のスピーチに「俺も頑張ろう」という気持ちが勝手に湧くもので、スポーツをしたい人がスポーツが出来る環境を整えてくれるだけで、物語はこちらが好きに紡ぐのでどうかお偉い方々はその辺は良い意味で任せて欲しい。とと、話が少しそれてしまった。
元PL学園の桑田清原のKKコンビ対決、駒大苫小牧マー君と早稲田実業ハンカチ王子のプロ入り後の明暗、弱小と言われていた広島が3連覇しカープ女子が流行り言葉に。色々な物語を紡いだ時、プロ野球は面白くなる。(この辺の話もまた今度書きますね。)

星野仙一さんや野村克也さんを中心に「打倒巨人」を物語にしていた時代は終わりを告げ、ここからは「打倒ホークス」である。しかもこのホークスが、巨人とは対照的なチームカラーというのがまた、良いじゃないか。

新聞というフィジカル媒体が母体の、創設年最古のチームが、伝統のユニフォームに、黒髪、短髪、ヒゲNG、平成と共に駆け抜けてきたが今はもう古い球場となった東京ドーム、現場からは引いてしまったがナベツネというドンがいて、ガチガチの保守カラーをまとった挑戦者、読売巨人軍。

対するはIT大手ソフトバンクグループ率いる主砲は茶髪、スピードスターは長髪、守護神や正三塁手はヒゲ面、PayPayドームにペッパー君率いるロボット軍団のディストピアダンス、そして何よりバックに大正義孫御大が君臨する王者、福岡ソフトバンクホークス。

正確には巨人のファイトスタイルが意外と先進的だったり、工藤監督はヒゲNGだった時代もあったのだが、ここはあえて、この「新旧対決」のアングルで紡がせて頂こう。何より巨人には長嶋茂雄終身名誉監督が、ソフトバンクには王貞治ソフトバンクホークス取締役会長がいる。幻のON対決として見ちゃってもさらに面白い。

「巨人は金満だからな〜」なんて未だに言っている人がいるがイヤイヤとんでもない、外国人助っ人も入れた支配下での年俸総額はソフトバンク65億、巨人43億なのだから(推定)約1.5倍も福岡の方が多いのだ。いいぞいいぞ、これは燃えますぞ。

かつて、圧倒的強さで球界を手玉に取っていた「勇者読売巨人軍」しかしそこに爆誕した「大魔王ソフトバンクホークス」
時代は流れ今は「すっぴん読売小人軍」となってしまったが果たして魔王を倒すことが出来るのか!?こんな文脈を勝手に考えながら来年のシーズンは追ってみようと思う。そのためにはどうか、ソフトバンクホークスよ圧倒的であれ、という想いと何より無事に来年2021年シーズンも開幕して欲しいなという年末なのでした。
よし、では書き終えたのでこれを言わせて頂こう。

良いお年を。

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