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前年比の落とし穴

ビジネスの世界では、「前年比」という言葉がよく使われる。これは、前年と今年を同じ条件で比較し、その伸長率をはかる指標である。前年比110%であれば、その数字が、前年より10%伸びていると考えることができる。小売の場合は、日割予算として、店舗の1日あたりの売上目標が定められている場合がほとんどであり、その目標は前年比100%以上超過を前提に立てることが多い。売上が前年比を超過しているということは、去年より売上が上がっているということであり、店舗の成長を判断する目安になるとされている。

しかし、この前年比という考え方には、落とし穴もある。売上前年比100%は、単に去年より売上が増えているという指標であり、決して、店舗が去年と比べて良くなっているという指標ではない。店舗の目標は、去年よりも良いサービスを顧客に提供することであり、その結果として、前年売上を超えることが目指すべき姿である。前年売上をクリアするのはあくまで結果であり、目的にしてはならない

そもそも売上とは、店舗のサービスに対する顧客からの報酬であり、サービスの対価として発生するものである。結果である対価を目的にすることは、本末転倒である。まず小売がすべきことは、売上を上げることではなく、顧客にサービスを提供すること、そして、サービスを日々より良いものにブラッシュアップすることである。

とは言え、前年売上に対する進捗の評価は、そのわかりやすさゆえ、未だ企業ではよく使われる指標である。前年比に対する考え方で大事なのは、数字の目標と、それに対する施策をゼロベースで考えることである。

前年売上を目的にした時の最も大きな弊害は、新しい施策が生まれにくくなることである。前年の売上を基準にした場合、一度うまくいっていることがわかっているために、前年に売上を取るのに使った手段を外すことは勇気がいる。そのため、打ち手が去年の焼き直しのような施策となり、顧客の変化に対応できず、需要のずれが生じてしまう。前年もたれの一番の弊害はここにあり、結果的に顧客の支持を失い、数字目標もクリアできずに終わってしまう。

以前に、これからは過去の分析よりも、未来の予測が重要になることを書いた。

社会の変化はますます早くなっている。前年と今年は同じ期間でも、まったくの別物であり、単純比較することの有効性は薄れている。そして、目標と施策を切り離して考えることが、需要にあった顧客へ提案につながるのである。

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