リアル店舗の価値
オフライン店舗は今、大きな分岐点に立たされている。
成長性については、人口減少による国内市場の停滞に加え、頼みのインバウンドも昨今の社会情勢で先行き不透明になった。
また事業特性として、物理的なスペースの制限があるオフライン店舗は、品揃えの豊富さにおいては、ECに勝ち目はない。
人件費や家賃を店頭の売上だけで賄おうとするリアル店舗のビジネスモデルは、もはや限界に来ている。
リアル店舗が生き残る唯一の方法は、何かに特化した専門店・スペシャリティストアにシフトすることである。
これまでの小売業が最も重要視していたのは、プロダクト(製品)だった。
製品が良ければ売れる、悪ければ売れないといった、プロダクトの良し悪しが顧客の支持につながると信じてきた。
大量消費社会において、機能が一定の水準に達したことで、市場にモノは溢れ、プロダクトの価値は下がっている。
プロダクトそのもので差別化をはかるのは、難しくなっている。
代わって価値を持つのが、理念や思想といった、コンセプト(概念)である。
この事業を通じて何を提供するのか、コンセプトへの共感こそが顧客へのメッセージとなり、プロダクトは、あくまでそれを達成するための手段のひとつとなる。
これからの事業は、コンセプトからすべてが始まる。
そのためには、売り手も作り手も、プロダクトファーストからコンセプトファーストに、思考を切り替える必要がある。
コンセプトにおいて大事なのは、ポピュラーミュージックのような、わかりやすさである。
店舗の従業員はもちろんのこと、顧客に対して、どんなビジネスを展開し、どんな価値を提供しているかが正しく伝わることで、店舗への認知と理解が深まる。
したがって、コンセプトは、「〇〇の店」、「〇〇を届ける」など、具体的で、なおかつひとことで表せるものが良い。
また、わかりやすさにおいてポイントになるのは、何をやらないかをはっきり決めることである。
事業の個性を決定づけるのは、やることよりも、やらないことである。
専門性を高める上で、やらないことを決めることで、自ずとやることが明確になり、それが事業の性格となる。
一方で、買いやすさや選びやすさ、豊富さといった、今までオフラインで追及していた指標は、今後オンラインで買い物体験の指標になる。
オンラインが購入環境の整備に注力することで、オフラインは、より専門性を先鋭化させることが可能になる。
これからのオフラインのキーワードは専門、オンラインのキーワードは総合になる。
さらに、コンセプトファーストのリアル店舗は、ライフスタイルの総合提案の場となる。
モノを売るのではなく、コンセプトを取り巻くカルチャーやコミュニケーションを売るのである。
モノの販売は、カルチャーの販売に伴う副次的なものになる。
未来のリアル店舗は、オンラインが普及することで、受け取り拠点や物流拠点などの複数の役割を担う場所になり、専門的な知識をもったスタッフとの交流の場となる。
顧客とのダイレクトな接点の場としての機能が、オフライン店舗の価値になるのである。
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