情報を拾い上げる

小売を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。以前はモノを手に入れるためには、時間と費用のコストをかけて、顧客は店舗まで出向く必要があった。ECが普及したことで、家から一歩も出ずに欲しい商品が買えるようになり、モノ手に入れるためのハードルが極端に下がった。

またオンラインの普及は比較検討も容易にした。以前は何かを調べようとすれば、自力で資料や情報を集めるしか方法がなかったが、インターネットが一般的になったことで、店舗が独占していた情報も、広く顧客の知るところとなった。店舗が情報の量で顧客へ価値提供することは難しくなった。

顧客が情報を持つ時代に、店舗がやるべきことは何か?それは、情報のピックアップである。

顧客は大量の情報にいつでもアクセスできるようになったが、その情報の多さゆえに、真偽を判断できる顧客は多くない。そこに店舗の役割がある。世に溢れている玉石混合の情報の中から、顧客にとって有益なものを拾い上げて提供することが、店舗の新たな役割になる。

情報のピックアップの精度を上げるには、関連する情報に数多く触れることである。最初の段階では質よりも量が大事である。数をこなすうちに、情報の共通項が見えてくる。共通のパターンは真理を突いていることが多く、信憑性が高い。まずは共通事項から割り出された定説を抑えておくことが重要である。

顧客のとって有益な情報を提供するには、定説に属人的なアプローチを掛け合わせることがポイントである。属人的なアプローチとは、店舗でいえば、スタッフの言葉である。

情報が飽和する現代において、画一的なマーケティングや、あからさまな広告は敬遠される。これからは、企業の言葉ではなく、個人の言葉が価値を持つようになる。個人の人間性を背景にした言葉は、顧客の共感を生み、そこから店舗や商品を介したコミュニケーションが発生する。

「小売再生」の中でダグ・スティーブンスが指摘するように、店舗で働く従業員も、作業員ではなく、アンバサダー(大使)になる。作業自体はこれからAIにどんどん置き換わっていく。その中で人間の役割は、顧客にとって有益な情報をピックアップし、商品やブランドの価値を伝えることに変わっていく。

顧客に支持されるアンバサダーは、その店舗だけの価値を生む。個人経営の店舗はもちろん、全国展開の店舗も、これから属人性が重要性になっていく。インターネットが普及する以前は、商店街の名物店主や、百貨店のカリスマ販売員と呼ばれる人々が店舗の主役だった。現代において、アンバサダーという形で、個人に再び注目が集まろうとしている。

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