「売る」の見直し
店舗における接客は、近年はどちらかというと、ネガティブな文脈で語られることが多い。
アパレルなどでよく見られる例では、大半の顧客は販売員の過剰な接客を煩わしく感じている。
一方で、自身に課せられたノルマのため、心から勧められない商品も、顧客に提案しなくてはならないという自分の役割と良心の間で葛藤する販売員もいる。
これは顧客、販売員双方にとって、不幸なことだが、小売の現場ではしばしば散見される光景である。
本来であれば、自分がいいと思うモノを人に勧め、勧められた相手が豊かになることは、双方にとってハッピーなことである。
にも関わらず、なぜ上のアパレルショップのような悲劇が起きてしまうか。
それは事業の目的が、拡大になってしまっているからである。
従来の小売ビジネスは拡大することを前提としていた。
平たく言えば、店舗を増やすことが、そのまま売上や利益を増やすことにつながったのである。
しかしそれは、人口増加と経済成長という前提があって、初めて成立する。
少子高齢化によってこの前提が崩れ、すでに今の日本にはマッチしなくなっている。
企業の中には、既存のビジネスでのマイナスを補填するために拡大をしているような企業もあるが、いずれ頭打ちとなる。
サービスを広めるために、拡大を目指すのは必ずしも悪いことではないが、それはあくまで手段としての拡大である。
それよりもまずは、サービスそのものの充実を目指すべきである。
そして、拡大する時点で中身が伴っていない場合、計画目標を埋め合わせようとして無理な販売が起こる場合が多い。
売上は顧客に奉仕したサービスの対価であり、売上が少ないということは、顧客へのサービスが足りないということに他ならない。
売上を上げるには、サービスの価値を見直すことが重要で、押し売りのような形をとることは、本来の商道から外れたことである。
さらに、人手不足で高騰する人件費や賃料などの店舗維持費を、店頭の売上だけで賄おうとする小売のビジネスモデルそのものも、限界を迎えている。
あらゆる前提条件が崩れた今、これからの小売は、事業を拡大することではなく、継続することに価値が出てくると考えられる。
継続に必要なものは、顧客に支持され続けることである。そのためには常に自らのサービスを磨き続ける必要がある。
継続に重きを置いたときに、まず変わるのは事業計画の立案の手法である。
これまでは、トップラインの数字を達成すべき目標数字として描き、そのための施策を立案していた。
しかし、あくまでも継続が目的であれば、事業継続の必要最低限なデッドラインの数字を算出し、それを下回らないように運営するオペレーションの立案も可能になる。
これは向上を目指さないということではなく、継続することこそが顧客への奉仕につながるとの考え方が根底にある。
つまり、常に自己研鑽をしなければ淘汰されてしまうため、これまで以上に自らのブラッシュアップを求められるということである。
上記のような事業計画であれば、高すぎるノルマに苦しむ店舗や販売員を減らすこともできる。
また、継続にシフトすることは、売るという行為の見直しにもつながる。
これまでは、ビジネスの収益を店頭での販売だけに頼ってきた。
顧客との関係の継続を考えれば、店頭販売以外の収益を持っておくことも重要である。
例えば店舗が体験スペースに変われば、商品をPRする企業からの広告収益が発生させられるかもしれない。
あるいは、熱量の高いファンのためのブランドコミュニティを、有料で運営できるかもしれない。
いずれにせよ、店頭売上の依存から脱却することで、より自由な店舗づくりが可能になるのである。
LTV(生涯顧客価値)という言葉があるように、ひと時の売上の最大化を目指すよりも、顧客との継続的な関係を築き、「売る」という行為もサスティナブル化を目指すことが、これからの店舗には求められるのである。
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