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確率を上げるには

バイイングは博打に喩えられこともある。商品は世の中に無数にあり、その中から何を選ぶかはバイヤーに委ねられる。何があたるかわからない。去年あたったからといって、今年もあたるとは限らない。競馬の予想屋よろしく、バイヤーはみな、観察と分析に基づいた独自の理論を持っている。

バイヤーは常に意思決定を迫られる。ビジネスである以上、でたらめに商品を選ぶことはできない。なるべく確率の高い選択をするのがプロのバイヤーである。打ち手を間違えれば、顧客の期待を裏切ることになり、自らの組織へも損失を与えてしまう。結果や責任の所在が比較的わかりやすいため、小売の花形でありながら、周囲の風当たりも強いのがバイヤーである。組織の中でヒーローになるのも、裏切り者になるのも、自らの選択次第である。頼れるのは己のみ、マウンドではひとりきりなのである。その中で、成功の確率を上げるにはどうすればいいか?

一般にバイイングに必要なのは分析力であることは間違いない。過去の購買データや需要予測、季節指数など、細かいデータをとることも可能になってきた。分析から傾向を導き出すのは、バイヤーの必須能力である。しかし、分析以上に大事なのは、仮説を立てる能力、いわゆる仮説力である。

分析はあくまで結果であり、過去である。現代において、過去の結果の通りに未来が進むとは限らない。特に近年は、変化のスピードがますます早くなり、過去の分析があてになりづらくなっている。また分析は、分析に溺れやすくなるというデメリットもある。分析に頼りすぎると、データが基準になり、自分の頭で考えることをやめてしまいがちになる。売上を上げるためにはそれでいいかもしれない。しかし一歩踏み込み、顧客へのプラスアルファの提案をするには、今はまだ、人間の頭が必要である。

それに対し、仮説は未来である。小売が奉仕すべきは未来の顧客であり、未来の顧客の生活を豊かにするためには、仮説を立てる力が不可欠である。

では仮説力を上げるにはどうすればいいか?ポイントは2つあり、ひとつはテーマを持つこと、もうひとつは、視点の切り替えることである。

仮説を立てる能力は、ある程度、経験がモノを言う。経験はいわばケーススタディの蓄積であり、経験が増えれば、そのぶん引き出しも増える。

しかし、いたずらに経験を積むだけでは仮説力は向上しない。ここで大事になるのが、テーマを持つことである。つまり、あらかじめ課題を設定していたか、である。軸となるテーマを持っていれば、結果に対する検証がしやすくなり、成功しても失敗しても、それは自身の経験としてストックされ、仕事の精度が上がっていく。逆にテーマを持たずに、行き当たりばったりの仕事をしていると、貴重な経験は蓄積されず、成長につながらない。

もうひとつのポイントは、視点を切り替えることである。視点を切り替えることで、対象を別の角度から捉え、ヒントを見つけることができる。物事はさまざまな要素が絡み合い構成される。スペックや価格などの通常比較だけでは、全体像が見えてこないことが多い。切り取り方を変えることで、物事の違った側面が表れることがある。桃太郎の側から見るか、鬼の側から見るかで、世界はずいぶん異なった景色になる。そこから仮説のヒントをつかみ、正解に近づくことができる。

そしてもっとも大事なのは、仮説力と顧客視点を組み合わせることである。ビジネスを継続するためには一定の利益は必要である。しかし利益を目的にしてはならない。小売は顧客の生活を豊かにするための商品を提供し、その結果として利益を得ることが目指す姿である。確率を上げるためのヒントは顧客の中にある。仮説と顧客の組み合わせが確率を上げる唯一の方法である。バイヤーは今日も、答えをもとめて、暗闇を彷徨い続けるのである。

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