これから小売が提供するもの
前回の記事で、これからの小売においては、プロダクト(製品)よりも、コンセプト(概念)が重要になり、その上でモノを売るのではなく、カルチャーを売ることについて触れた。
事業の継続について考えるとき、まず、顧客は何に代金を支払うかについて考える必要がある。
顧客は、プロダクトそのものではなく、提供する価値に代金を支払うのである。
これまで顧客が代金を支払っていたのは、プロダクトに価値があったからである。
今までになかったプロダクトを手に入れることにより、顧客の生活が劇的に変化したからである。
1950年代に三種の神器と言われたテレビや冷蔵庫、洗濯機などは、購入することで顧客の生活は豊かになり、プロダクトそのものに価値があった。
その後改良、改善を繰り返していく中で、プロダクトの機能レベルが一定水準まで達して、どの商品も明確な差がなくなり、なおかつ、どこででも手に入れられるようになったことで、プロダクト自体の価値は大きく下がっていった。
多くの製品がコモディティ化し、これからもプロダクトの価値は目減りしていく。
モノを売るのが小売の仕事だが、モノの価値が相対的に下がっていくときに、これからはモノを売る以外の価値を提供しなくてはならない。
モノ以外での価値の提供を考えたときに、これからキーワードになるのは、体験である。
体験は、①ライブ②参加③コミュニティ④ストーリーの4つに分類できる。
①ライブ
ライブは同時性である。
顧客と店舗が同じ時間や経験をリアルタイムで共有することで価値を生む。
実店舗でのイベントやSNSでの配信など、オフラインとオンラインを目的によって使い分けることで、より効果的になる。
またライブで同じ時間を共有することは、顧客との接点の機械を持つことでもある。
これからはいかに顧客と接触をはかるが、店舗にとって重要になる。
②参加
参加は一体化である。
顧客がブランドに参加することで、店舗との距離を縮め、コミットが深くなれば、店舗を自分ごととして感じてもらうことができる。
例えば、顧客と店舗が共同で商品づくりをすれば、顧客のブランドへのコミットメントはさらに深くなる。
顧客のコミットメントが深くなるほど、ブランドは顧客にとってなくてはならないものになり、関係がより一層深まる。
特に既存顧客にリピートをしてもらうためには、ブランドを理解し、関係を築き上げていくことが重要になる。
③コミュニティ
コミュニティは化学反応である。
顧客と店舗スタッフ、あるいは顧客同士など、人と人がつながることで新しい化学反応が生まれ、それが体験になる。
人の結びつきはもっとも代替が利きにくく、ブランド体験として大きな価値を持つ。
これらはいずれも独立したものではなく、要素として相互に影響しあっている。
同じ瞬間は二度と訪れないからこそ、そこに価値が生まれる。
店舗は強引にコントロールしようとはせずに、セレンディピティを待つくらいの姿勢が望ましい。
④ストーリー
ストーリーは補完である。
プロダクトが持っている物語を立体的に補うことで、顧客のブランド体験を促すことができる。
ストーリーのある商品は、小売体験をしている瞬間、あるいは購入した後に価値を生むためのものである。
これは商品に後付けするようなものではなく、もともと持っていた物語をうまく表現することが重要である。
開発の経緯や製作者の思いなど、どんな商品にもストーリーはある。
ストーリーがない商品はプロダクトととしても顧客に提供できる価値は少ない。
顧客の共感を生むストーリーを伝えることが、顧客の体験価値を高めるのである。
これからの小売において、体験こそが新たに提供する価値になり、店舗の役割になるのである。
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