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モノでの差別化の限界

競争戦略のひとつに、差別化戦略がある。

差別化とは、同じカテゴリーの商品について、他社製品と異なるポイントを明確にし、自社の強味として打ち出すことである。特に従来の製品にプラスアルファの機能をつけ、付加価値として訴求されることが多い。作り手は知恵を絞り、日夜、商品開発に励んでいる。差別化は、競争戦略における基本戦略である。

一方で、落とし穴もある。差別化を意識し過ぎるあまり、付加価値をつけることが目的になってしまうケースがある。この場合、その付加価値は顧客にどういうメリットをもたらすかが置き去りになる。テレビのリモコンのボタンのように、使わない機能をプラスしても、顧客が得るものはない。モノが溢れる時代において、機能で差別化を図ることには、もはや限界が来ている。

現代におけるほんとうの付加価値とは、商品の延長戦上にあるものではなく、まったく別の価値を与えることである。そして、まったく別の価値とは、商品に意味やストーリーを与えることである。

例えばフェアトレードのチョコレート。例えば独自製法が生まれるまでのエピソード。なぜその商品が生まれたか、言葉にできる物語のある商品が、これからは強い。その商品だけの独自のストーリーが、差別化につながるのである。

作り手の背景にあるストーリーや価値。顧客はモノと一緒に、理念を買うのである。もっと言えば、理念を買いたいのである。理念は顧客への約束であり、メッセージである。なぜその企業が存在、なぜその商品を生み出したのか、社会に対する責任の表明である。その商品を手にすることで、顧客の生活にどういう影響をもたらすのか、明確に表現する必要がある。

そして、特にこれからもっとも価値をもつと思われるものは、コミュニケーションツールとしてのモノである。モノをそのものよりも、モノを通じて広がるコミュニティこそ価値がある。すなわち、コミュニティにつなげられるモノがこれからは求められているのである。

例えばある商品のファンがいる。ファンとファンがモノでつながる。そこに会話と共感が生まれる。会話と共感がさらに仲間を呼ぶ。仲間が増えれば、そこにコミュニティが生まれる。意味やストーリーのある商品は、人と人をつなぐ共通言語である。理念やストーリーに共感した人が、モノを通じて集まってくるのである。これが商品にまったく別の価値をもたらすことであり、現代の小売において、もっとも重要なことである。売り手や作り手は、顧客に対し、会話を生む商品を提供しなくてはならない。

顧客は買う理由を求めている。そして語る機会を求めている。モノ以外の価値を提供することもまた、小売業者の務めである。

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