連載小説★M&A春風 第61話 戦略的提携に係るご提案(本文)
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右上に日付。
左上に宛先として、三島建機の経営企画担当専務。
続いて、右寄せで、白馬機工パワーロボティクス事業本部山根本部長の名前。
その下に、『戦略的提携に係るご提案』という件名が下線付き中央配置で書かれている。
続いて、
『拝啓 貴社ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。』
というご挨拶から始まり、提案機会を頂いたことへの感謝、JVを含む戦略的提携を提案したいこと、対象事業と当社の相互連携で更なる事業価値を創造できること、具体的提案の機会を頂きたいこと、詳しくは添付資料参照、と本文が続く。
A4縦一枚の非常に畏まった書面である。
「いきなりこんな本気文書を送るのですか?」
鈴木が即座に反応する。
「はい。私もそこは悩みましたが、先方がすでに売却を視野に入れていること、その前提で当社に情報共有がなされていることは明白なので、先方としても拒否感はないはずです。そのため、格式を高めて本気度を伝えることを重視したいと考えました」
相手が事業売却する気があるか否かが定かではない場合は、探りを入れる意味でもう少し穏やかな入り方もありえる。
だが、今回はフォーマルな提案を出した方が相手も社内で進めやすいはずと、IWBC証券の高木もアドバイスをしてくれていた。
「……まあ、それはそうかもしれないですね。続けてください」
鈴木も外資系投資銀行出身の実力者だ。
このような戦略論に対しての理解度は抜群なので、無意味な反論はしない。
こうして、第二関門を突破した真奈美は、添付資料による具体的な内容の説明に入るのだった。
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