連載小説★M&A春風 第64話 葛藤
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資料は最後に、今後のお願いについて書かれていた。
本書をもって具体的に協議をさせてほしい。
NDA(秘密保持契約書)を締結。
対象事業の初期的情報の開示の依頼。
それに基づき、価値評価を含めた具体的な提案を行う。
その後、DDや協議を進めていきたい。
「このような内容を考えております。こちらが、本書の概要です」
最後に、真奈美は提案書の概要を一枚にまとめたプレゼンを手渡した。
鈴木は眉をひそめて考える。
その一枚のプレゼンが意図するところはただ一つ。
『この一枚を使い、15日の経営会議で幹部たちにインプットしたい』
鈴木もその意図を理解する。
正直ボトムアップの案件なのであまり乗り気にはなれない。
しかし、CTOからの依頼が発端でもあるし、三島建機という意外と大きな玉が転がってきたこともあり、無下にはできない。
経営会議では、真奈美に報告させるという手もあるが、もし幹部がポジティブな反応だった場合を考えると自分で報告しておいた方が株は上がる。
仮にネガティブであっても、まだ費用も使っていない段階だし、このままプロジェクトを潰してしまえば自分への不評は最低限で抑えられるはず……
おそらくそのような葛藤が、鈴木の頭の中を高速に巡っていたのだろう。
沈黙後、その紙にいくつか手書きで修正ポイントを書きなぐった。
「私が報告をしておきます。修正版をメールしておいてください」
「はい。ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
なんとか、第二関門を通過できた。
真奈美はふかぶかと頭を下げた。
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