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忙しい人のためのHip Hop史④『多様化と進化‐後編〜3人のパイオニア・ラッパー〜』


ディスコのサウンドに加え、エレクトロやロックの要素を取りいれることによる音楽性の多様化や、サウス・ブロンクスとクィーンズの内紛による競争の激化。東海岸のHardcore Rap、西海岸のGangsta Rapの誕生など、80年代半ばはHip Hopの今後の発展にとって大きな分岐点となりました。

同時期に、ラップという手法も著しい進化を遂げます。中でも特筆すべきは、従来のラップの仕方から一線を画した、押韻法やフレージング、リズムの取り方の複雑化でしょう。

今回はその「ラップ黄金期(一般的には80年代か半ばを90年代を指す)」を語る上で欠かせない、3人のパイオニア・ラッパー達について、1分で読めるよう簡潔に述べていきます。

・Rakim(ラキム)
・Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケーン)

・Kool G Rap(クール・G・ラップ)

Rakim (ラキム)

ラップの文学的な発展を語るうえで欠かせないのが「God MC」こと、ロングアイランド出身の伝説的ラッパー・Rakimだ。母や叔母、兄がミュージシャンで自身も小学校から高校までサックス奏者としてジャズ音楽にたしなみ、ラッパーデビュー当時も伝説的サックス奏者、故ジョン・コルトレーンのフレージングを参考にし、リズムを取っていたとKRS-Oneとのインタビューで語ってます。

自己主張激しく朗々と、文末で押韻する単調なスタイルが主流だった80年代前半のそれとは異なり、Rakimは落ち着いたトーンと持ち前の語彙力で、展開が読めない複雑な押韻手法の多用を繰り広げます。この様な「押韻、リズム、声の強弱の取り方」は後に「フロウ」と定義され一般浸透し、Rakimはその他にもマルチライム(多音節韻)やインターナル・ライム(中間韻)の先駆者として、東海岸を筆頭に、後世の全てのラッパー達に影響を与えます。

前述の「フロウ」に関しては、ラッパー達が自身の個性を表現するうえで欠かせないラップの重大要素となり、もはやRakimなくして現在のHip Hopは存在しないといっても過言ではないでしょう。

Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケーン)

前回の記事で紹介したMC Shanと同じく、実力派グループJuice Crewに所属し、ブルックリン出身の伝説的なラッパー・Big Daddy Kane。80年代後半最強のラッパー論争では、Rakimと彼の名前がよく比較対象としてあげられますが、その背景には彼独自のスタイルがあります。

Kaneのスタイルを象徴するのは、発声の強弱を意識した、高速なビートの上での叩き込むような他音節韻や中間韻、リスナーたちを圧倒する高速フロウ以外にも、ポップカルチャーを引用とした直喩などを駆使したインパクト絶大のパンチライン、言葉遊びの応用が挙げられ、EminemやThe RootsのBlack Thought、Big LやMF DOOM等、次世代の実力派ラッパー達に多大な影響を与え、今でも多くのアーティスト達から絶大な支持を得ています。


Kool G Rap(クール・G・ラップ)
Big Daddy Kaneと同じく、Juice Crewのメンバーであったクィーンズブリッジ出身のKool G Rap。前述のマルチライム(多音節韻)を多用したラップスタイルと、ガフガフした声でリズムの強弱を取る男臭いフロウ、情景描写に長けた言葉遊びやストーリーテリングで、後のNasやNotorious B.I.G.、Jay-ZやRaekwon等実力派ラッパー達にも多大な影響を与えます。

80年代後半、N.W.A.やIce-Tなど西海岸のラッパー達がストリートでの過酷な日常、国家権力との闘争等を謳っていた頃、同時期にKool G Rapは独自の視点で暴力、抗争や貧困に関する洞察力鋭い歌詞のラップを展開していきます。彼は持ち前のラップスキルに加え、「Scarface」や「The Godfather」など、黒人コミュニティの間で当時大人気だったマフィア映画を筆頭にポップカルチャーの積極引用をすることによって、Mafioso Rapとジャンルを築き上げ、これは90年代の東西抗争において、ウェストコーストのG-Funkの対抗馬として人気が再燃します。



【参考文献】



"Big Daddy Kane and Rakim (with the blastmaster in the background),'' Chuck D's Official Facebook (posted: the 4th of Septmeber, 2017)

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